ファン主導の聖地巡礼
観光業への影響も大きい。JR九州は20年11月から12月にかけて「SL鬼滅の刃」を運行した。劇場版に登場する蒸気機関車のモデルとされる列車が、大正時代に製造され、現存する日本最古の蒸気機関車「国鉄8620形蒸気機関車」と似ていることから始まった企画だ。指定席券が発売開始と同時に秒で完売し、熊本~博多駅間で840円(税込み)の指定席券が、4万円以上で転売される出来事まで起こっている。
作品の縁の土地をまわる「聖地巡礼」も、ファン主導で起こっている。九州各地にある「竈門神社」には、主人公の竈門炭治郎と名前が重なることから、ファンが参拝に訪れる。境内には鬼滅の絵が描かれた絵馬が数多く奉納されている。
「パワハラ会議」の舞台となった無限城にそっくりと話題になったのは、福島県会津若松市芦ノ牧温泉にある「大川荘」だ。大きな吹き抜けが1階から地下1階にかけて広がっている。その間は階段で結ばれており、正方形の浮き舞台が途中に突き出ている。大川荘の広報を担当する山崎和さんは、「昨年の2月ごろから『鬼滅』に関する問い合わせが増え、秋には満室になる日も多かった」と振り返る。また、利用者も「年配者が中心でしたが、家族連れや20~30代の女性グループが増えた」。「鬼滅」ファンとみられる利用者には、リピーターになる人も少なくないという。
言葉のインパクト
ただし、大ヒット作品とはいえ、人気は推移もしている。国際大学GLOCOM講師の菊地映輝さん(34)はこう指摘する。
「Googleトレンドによる検索件数の推移をみると、1期アニメの放送中から指数関数的に伸びています。その後、増減を伴いつつ、劇場版公開直後の20年10月末にピークを迎え、以降は波を繰り返しながら少しずつ落ち着きを見せている」
北海道大学でアニメについて研究する、アニメコラムニストの小新井涼さん(32)は、「『鬼滅』人気はアニメ化以降、ツイッターなどSNSを中心として口コミ的な人気の広がりを見せた」と分析する。
アニメ1期「鬼滅の刃」の放送は19年4月から9月にかけてで、Googleトレンドのピークとなった20年10月とは約1年の開きがあるが、「機動戦士ガンダム」(1979年)や「新世紀エヴァンゲリオン」(95年)も、放送終了から数年の時間をかけて人気に火がついた作品だ。
「確かに『鬼滅』も、大枠では『ガンダム』や『エヴァ』と同じように、放送が終わってからも人気は広がり続けた。ただし、これが1年足らずという時間で社会現象になったのは、SNSの影響が大きいと思います」(小新井さん)