だからこそ逆に、表現者や企画者は自己チェックを繊細に行う必要がある。そのうえでさらに難しいのは、基準もまたすぐ移り変わること。温泉むすめが始まってからの5年で、日本社会のジェンダー規範は大きく変わった。「夜這い」も当時は問題視されなかったかもしれないが、だからこそ今回の騒動は起きた。温泉むすめの運営に、変化への配慮が欠けていたのは間違いない。
しばしば言われるように、日本社会は伝統文化を含め性に寛容である。それは弱点でもあり長所でもある。グローバルな倫理規範とどう整合性を取るか、今後も似た騒動は起こり続けるだろう。
東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数
※AERA 2021年12月6日号