批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。
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温泉むすめ騒動をご存知(ぞんじ)だろうか。この2週間ほどSNSを賑(にぎ)わせている「炎上」だ。
温泉むすめは2016年に始まったプロジェクト。全国(一部台湾)の温泉地を「萌え絵」でキャラクター化し、地域活性化を支援する試みだ。観光庁の後援も受けている。
この設定の一部に「夜這(よば)い」「スカートめくり」といった言葉があることから、性差別だと問題になった。きっかけは活動家の仁藤夢乃氏による11月15日のツイート。投稿は7千以上のRT、1万以上のいいねを集め(24日現在)、翌日には公式サイトでの設定が修正される事態になった。
けれども騒動が大きくなったのはむしろその後である。仁藤氏は個別の修正で済ませるべき話ではなく、温泉の魅力を少女キャラクターで表象することそのものが性差別につながると主張。加えて萌え絵自体への批判も繰り返したことから、逆にキャラクター文化を愛する層から男女問わず反発を買うことになった。騒ぎはいまも収まっていない。
解決は悩ましい。萌え絵は日本発の表現技法で、いまでは広く社会に溶け込んでいる。国外でも受容されている。けれども起源の一部はポルノメディアにあり、性的喚起力に長(た)けていることも確か。人間の想像力は豊かだから、性器を描かなければ大丈夫という単純な話にはならない。どこまでが「かわいい」でどこからが「エロい」かは、最終的には個人の感性で判断するほかない。