17年まで教団の家庭教育局副局長を務めた櫻井正上氏は、こう証言する。
「自分の性は将来のたった一人の相手への贈り物で、深く愛し合うために守るものだと教えられてきた。過激な性情報は、青少年の健全育成に弊害をもたらすという危機感があった」
浅井名誉教授によると、教団は大学教員や研究者などに金銭を払って近づき、教団の主張を新聞やテレビなどで語らせる手法でじわじわとバッシングの輪を広げてきたという。
「統一教会の罠だと感じました。彼らにかき回された」(浅井名誉教授)
元文部科学事務次官の前川喜平さんも、
「旧統一教会は、個別の政治家を通して、政策に影響を与えてきたと言えるでしょう」
と話す。例えば、自民党の下村博文議員は21年の衆院選前に旧統一教会の関連団体「世界平和連合」から推薦状を得ており、15年に教団の名称変更の申請を認めた時の文科相でもあった。
そして、98年。学習指導要領改訂で、中学校の保健体育では「妊娠の経過は取り扱わないものとする」という「はどめ規定」が加わった。前川さんは、
「自民党からの圧力によって、『はどめ規定』が加わったことは間違いありません。その際、旧統一教会から自民党への働きかけがあった可能性は十分あると思います」
と指摘する。「はどめ規定」によって、性教育バッシングは勢いを増し、冒頭の小泉元首相の答弁へとつながっていく。
■先進国は包括的性教育
紆余曲折を経ながらも、「はどめ規定」が足かせとなり、なかなか前進しない日本の性教育。一方で、先進国ではユネスコ(国連教育科学文化機関)などが作成した「包括的性教育」が主流になりつつある。
「自分と自分以外の人も大切にする」という人権の尊重をベースとした性教育で、「人間関係」「価値観、人権、文化、セクシュアリティ」「ジェンダーの理解」など8項目からなる。より細かく、各年齢で学ぶ具体的な目標も示されて、例えば「妊娠、避妊」では9~12歳でコンドームの使い方を学ぶという。
今回の取材でよく耳にした言葉がある。
「性教育は人権教育だ」
国内外のこうした流れを見ても、国が「はどめ規定」を撤廃すべきなのは明らかだろう。(編集部・古田真梨子)
※AERA 2023年1月30日号