人生をとりもどすぞ!
その一文を読み、私こそ、人目をはばからずに号泣してしまった。こんな思いで生きている女性がどれだけいるだろう。包丁を夫の目から隠すように生活をしている人。ずっと心を殺されてきて、夫の死を願うことでしか未来が描けないほど追いつめられている女性。小さな子供を抱え途方に暮れている人。たとえ夫から逃げられたとしても経済的にどう生きていけばいいのだろう……と絶望の淵に沈む人。
11月25日は女性に対する暴力撤廃の国際デーだった。この日を象徴するパープルの色をまとい、全世界で声があげられた。暴力は拳の力だけを意味するのではない。経済的に支配し、性的に支配し、感情を支配し、心を殺していく暴力がある。そのような暴力に名がつけられたのは、決して遠い昔の話ではない。日本でDV防止法が施行されてから今年でちょうど20年になる。DV防止法が施行されてもなお、救われることのなかった多くの女性たちがいる。
夫をのこぎりで殺害した女性は裁判長に「後悔していますか?」と聞かれ、視線の定まらない様子でふらふらしながらも、小さい声でこう答えていた。
「悪いことをしたが、後悔はしていない」
夫の死でしかこの暴力を止めることはできなかった。そこまで1人の女性を追いつめた暴力の正体を、私たちは捉えているだろうか。撤廃するための知を、力をもっているだろうか。そのことが、今、改めて問われているのだと思う。
■北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表