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 今年じゃない。高級ケーキは今じゃない。

 私の自己満足からの大いなる虚しさで終わる。

 やめやめ! 中止だ!

 私が子供の頃、水野家のクリスマスケーキは、サーティーワンのアイスクリームケーキがお決まりだった。

 父が餡かけスパゲティーを作り、母がケーキを買ってくる。

 四日市に住んでいたので、お隣の名古屋の食文化に影響を受けていた。だからいつも味噌汁は赤だしだったし、餡かけスパゲティーも食卓の常連だった。

 ひき肉と玉ねぎが入ったコンソメ味の餡がたっぷりかかったスパゲティー。

 名古屋のレストランで食べたものを、父が独自に真似して作ったレシピだった。

 あの味。クリスマスの風景とともにはっきりと記憶に刻まれている。

 最後にお皿に残った餡を、ずずっと啜って食べたものだ。旨味たっぷりの餡の余韻がたまらなかった。

 こうして思い出したら、食べたくなってきた。

 今年のクリスマスに作ってみようか。

 餡かけパスタ文化にまだ出会っていない、うちの家族には受け入れられるだろうか。

 で、問題のケーキである。

 母は毎年、アイスクリームケーキを買ってきて、冷凍庫に入れずに冷蔵庫に保管してしまう。

 みんなでスパゲティーを食べ終えて、「さあ、ケーキだ」という段で、母が毎年、ケーキの箱を冷蔵庫から取り出し、「あら! 溶けちゃってる! 間違えて冷蔵庫に入れちゃった!」と言う。

 これが見事に毎年だった。

 しかしドロドロの液状になっているわけではなく、かろうじてケーキの外観を保っているものの、もうぷるぷるになってしまっているという状態。

 それが我が家のクリスマスケーキだった。

 特にがっかりした記憶はない。

 溶けていようがなんだろうが、アイスケーキを食べていることに変わりはないし、アイスケーキというのはやっぱり特別で、嬉しかったんだと思う。

 だけど溶かしてしまった母は、毎年がっかりしていたのだろうか。今になって母の気持ちを思うと少しせつない。

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髭、ロン毛、メガネの夫の中に乙女が棲んでいた