
明ノ心君は、「こんにちは」などと声をかけられても答えることができないので、感じの悪い子どもだと思われてしまうことがある。
「私もそうですが、同じような障害の子を持つお母さんたちとお話しすると、せっかく声をかけてくれたのに気分を害してしまい、申し訳なく思ってしまうという声をよく聞きます」(明美さん)
「見えない障害」。当事者やその家族が、事情に気づいてもらえず誤解されてしまうケースは少なくない。
ただ、明美さんの脳裏には、明ノ心君が2歳頃の、ある記憶が焼き付いている。
「障害があります」と書いてある缶バッジがたまたま病院にあり、職員に勧められたため、明ノ心君の身に着けて出かけるようにした。
「バッジに気づいた人から『何かできることはないですか』と声をかけていただいたり、どんな障害なのかを聞いてくださったり、バッジがきっかけで声をかけてもらうことが増えたんです。みなさん、とても優しくて。その時、周囲の人は決して障害者に無関心なのではないと知ることができました。障害をオープンにすることで、優しくしてもらえることに気づきました」
保育園に入った時も、同じような経験をした。人工内耳を着けていることは外見で分かるため、明美さんは、他の子と見た目が違う明ノ心君がいじめを受けたりするのではないかと不安を抱いていたという。
「保育園の先生が園児たちに、人工内耳を触ってはいけないことなど、息子への接し方をていねいに教えてくれたんです。すると、誰かが息子に『遊ぼう』と声をかけると、別の子が『これ(人工内耳)は触っちゃだめだよ』と言ってくれたり、みんな仲よく遊んでくれました。私の不安は取り越し苦労だったんです」
その後、缶バッジが壊れてしまい、同じようなものが欲しいと考えていたという。冒頭のエレベーターでの一件や、バスでバギーを蹴られたりといった出来事が続く中で、決断した。
「自分で作っちゃおうかなと思ったんです。障害のある子を持つ親で、欲しい人もきっといるはずだと。周囲の目が気になってしまうという方がたくさんいますから」(明美さん)