『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』
『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』

 2人のようにネット発で作家になれる時代になった。編集者が書き手を発掘する方法や視点も、変わってきているのか。

「SNSから本を出すのは、メジャーなルートになっていると思います。編集者であればツイッターやインスタグラム、ユーチューブは誰しもチェックしているのでは」

 こう話すのは、出版社のSBクリエイティブ学芸書籍編集部の鯨岡純一さん(40)。ヨビノリたくみさんや中田敦彦さんら人気ユーチューバーの書籍を多く手がける。

 ユーチューブから書き手を探す際は知名度やチャンネル登録者数も考慮するが、「最も大切なのはコンテンツの独自性」と鯨岡さんは強調する。

 代表例が18年に担当した『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』という本。著者の山崎圭一さん(通称ムンディ先生)は福岡県の高校で地歴・公民を教える教員。一般人の初著作、かつ350ページを超えるボリュームと一見売れにくそうな条件が重なっていたが、順調に売り上げを重ね、累計47万部を超えるヒット作となった。

 反響が大きかったのが「年号を使わず、一つのストーリーにもとづき歴史を解説する」という教え方だ。山崎さんの動画を見た時、「オンリーワンのスタイル」と感じたと、鯨岡さんは振り返る。

「私も世界史は得意でしたが、年号を丸暗記するような勉強をしていました。ムンディ先生の教え方は、多くの人にとって世界史の理解がより深まる方法だと感じたんです」

 書籍化にあたっては、本書のポイントをまとめた章を「ホームルーム」として冒頭に設け、色分けや図版を積極的に取り入れて工夫を凝らした。

「ユーチューブやSNSは無料で見られますが、本はお金を出して読んでいただくもの。映像と書籍では求められるものが必ずしも同じではないので、その点には一貫して注意を払っています」

 自分の興味関心を表現したい気持ちは、誰しも持っているもの。ネットであれ独自性ある投稿をコンスタントに続けていれば、「作家デビュー」も決して夢ではない。(本誌・松岡瑛理)

週刊朝日  2022年11月11日号