従業員の価値化が多様化する今、企業の人材に対する考え方も変化を求められている。一人ひとりのやる気・やりがいある職場を実現するため、これからの時代に必要なマネジメントとは。AERA 2022年11月7日号から。
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「これからは一人ひとりの色を生かすマネジメントが求められる時代になります」
組織改革のあり方について、こう説明するのは、組織開発コンサルティングやコーチングスクールを展開するPallet代表取締役の羽山暁子さんだ。
背景には、いま注目される「人的資本経営」の考え方がある。人的資本の情報開示を義務付ける方針も示され、今年は人的資本経営元年ともいわれる。
経済産業省によれば、“人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる”ことがその目的だ。同省が5月に発表した「未来人材ビジョン」というレポートでは、今後の産業構造の転換を見据えて、次世代に求められる人材像について言及された。
「レポートによれば、2015年当時、企業が個人に対して求めるコンピテンシーは、注意深くミスがないこと、責任感、真面目さ、信頼感、誠実さといったものでした。組織の哲学が絶対で、自分自身の色をなくすことがよしとされていました。一方、これからは、問題発見力や的確な予測、革新性などが求められるようになります」(羽山さん)
個人の価値観、大切にしていること、やりたいことが多様化している時代だ。
「同調圧力で個人を組織の色に染めるのではなく、メンバーそれぞれの価値観と組織の目標が重なる共有ゾーンを見つけ、一人ひとりのエンゲージメント、つまりやる気・やりがいを醸成していく必要があります。そうでないと、選ばれる企業にはなれません」
日本企業の従業員エンゲージメントは世界全体でみると最低水準であることも指摘されている。
「2012年と比較した調査でも、働きやすさは上がっている一方、“働きがい”つまりエンゲージメントは低下していることが明らかになっています」
羽山さんが取締役を務めるもう一つの会社AODは、早稲田大学人間科学学術院の向後千春教授とともに研究を行い、エンゲージメントと幸福度を定量的に把握する組織診断ツール「Happiness Maker」を開発した。