それは、人に対しても変わらない。たとえば川田さんは、「人に何か聞くときは、自分の答えや考えを用意していく」という。
「わからないことがあったら人に聞く、という行為自体はとても大事だと思うんです。でも、その方が時間をかけて積み重ねてきたものを教えてもらうなら、こちらは敬意を示さないといけないと思います。それが、マナーですよね。私がその立場だったら、という視点も忘れないようにしています。自分なりの答えや考えをもつには、真剣に考える必要があります。『それでもわからなかったので教えてください』と言われたら、私ならうれしくて全部教えたくなっちゃう。自分では何も調べず答えをすぐ他者に求める人と比べると、こちらの気持ちが大きく変わってきます」
川田さんのきりっとした真摯な態度が、相手の気持ちをもゆるめ、胸を開かせていることがよくわかる。
「私も最初から、きりっとしたり自分をゆるめたりメリハリをつけて仕事をできていたわけではないんです。ずっとつまずきっぱなしで、仕事を辞めたくなったときもあります。しかもその理由がいま思えばちょっと恥ずかしい……。そういった失敗も、包み隠さず書いた一冊です。かっこつけて書いた文章では、いまお仕事や周囲とのコミュニケーションに悩んでいる方が読んだとき、自分以外の人がみんなうまくやっていると受け取られるかもしれない。それによって、本当はできることでも最初からあきらめてしまうとなったら、もったいないですよね。そうではなく、泥臭くてかっこ悪いところもある私の仕事ぶりから何かを感じとっていただきたいと思います」
川田さんはアナウンサーという仕事に真摯に取り組み、高度なコミュニケーション術を獲得してきた。次回はそのなかでも、いろんな職場ですぐに応用できるビジネスコミュニケーションのヒントを教えてもらう。
(取材・文/三浦ゆえ)