伊坂幸太郎『ペッパーズ・ゴースト』(朝日新聞出版)※Amazonで本の詳細を見る
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伊坂:僕のオビは「作家生活20周年超」と、「超」が付いてますけど(笑)。去年出せたら良かったんですが……。執筆中は、スクラップ・アンド・ビルドの繰り返しで、もうだめだという瞬間が何度もあって、本当に作品が完成するのかどうかすら分からない期間が長かったです。

雫井:『ペッパーズ・ゴースト』はSF的な予知能力の面白さから、犯罪被害者というテーマであったり、作中作を取り入れたメタ構造のギミックまで入っている。伊坂ワールド、伊坂節を堪能できるという意味では、集大成と言えるものだなと僕も感じました。

伊坂:本当は、もっと賛否両論なやつを書きたかったんですよ。でも、はちゃめちゃなものを書きはじめたものの、誰も読んでくれないんじゃないかなと怖くなっちゃって、当初予定していたプランを白紙にしました。結果的に、賛否両論を目指していたとは思えないくらい、自分らしい小説を書いてしまって。不本意ではあるんですが、これが自分の限界というか、現実なのかなとも思い知りました。

雫井:ひとつひとつの要素も伊坂さんらしいんですが、個々の要素がいったいどういうふうに繋がっていくのか、話の先がまったく読めない感じが伊坂さんの小説だなぁと思いましたよ。すごく読者を楽しませてくれている。

伊坂:嬉しいです。「これ、どうなるの?」と思ってほしくて書いている気持ちは強いんですよ。自分でも「どうなるの?」と、着地点が分からず書いている時も多いんですよね。「ここには着地したくない」って要素がたくさんあって、それを除外していった結果がここでした、と定まっていく感じで。

雫井:「ここには着地したくない」って感覚、よく分かります。20年書いていると、例えば「このやり方は前にやったな」とか「こっちに行くと読者の反応が良くないだろうな」って要素が積み上がってきて、だんだん使える手が狭められていく。

伊坂:やっぱり過去の自分がやったことと全く同じことはできないですよね。長く続けるうちに自由度はだんだん狭まってきて。狭められた中で新しい手を探すというのは、醍醐味でもありますけど。

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伊坂幸太郎と雫井脩介の2人とも好きという人は少ないのか?