伊坂:2人きりでたくさん喋りましたよね。その後は、共通の知人の結婚式と、何かの授賞式でばったりお会いしたぐらい。最後にお会いしたのはちょうど10年前です。

雫井:本当は去年、お互いの20周年を祝ってご飯でもと約束してたんですが、コロナでそれもできないままで。

伊坂:僕は今日、「雫井さんと仲がいいんだぞ!」ということを自慢しに対談しているだけなんですよね(笑)。雫井さんだけですよ、著作を全部読んで感想まで伝え合っているのは。

雫井:僕もそんな人、他にいないです。2作目の『ラッシュライフ』(2002年)が出た時に、伊坂さんから本を送ってもらったんですよね。これから機会があればお話しさせてください……という趣旨の丁寧な手紙も一緒にもらって、そこからです。今はメールでやってますけど、初期はお互いの本が出るたびに電話をかけ合っていました。

伊坂:うわっ、懐かしいですよね。僕は、家だと奥さんがいて長電話はしにくいし、当時は仕事場もなかったので、ネットカフェの電話ブースとか百貨店の階段から、雫井さんに電話をかけていました(笑)。

雫井:ただ、僕が1冊書いたか書かないかのうちに、伊坂さんは2、3冊本を出している。短編書きたくない書きたくない、と言ってるそばから短編集も出て(笑)。だから僕から電話することが多かったです。

伊坂:掛け持ちでいっぱい仕事を受けちゃっていたんですよね。僕としては1作1作をじっくり書いている雫井さんに対して、うらやましさがあったんですよ。「雫井さんがうらやましいです。雫井さんみたいに仕事したいです」「伊坂さんも大変ですね」みたいなやり取りが続いていたんですけど、ある時、「もしかして、うらやましく思ってないでしょ?」みたいな返事があって(笑)。そんなことないのに!と思いながら、笑っちゃいました。

雫井:だって絶対、僕みたいになろうとしてないでしょう(笑)。

■伊坂幸太郎にしか出し得ぬ作品世界

──お2人は今年、久々となる書き下ろし長編を刊行されました。雫井さんの『霧をはらう』は、罪状からして死刑は免れない、けれども無罪を主張している被告人の弁護に当たる若手弁護士が主人公の法廷サスペンス。伊坂さんの『ペッパーズ・ゴースト』は、未来が見える超能力を持つ中学校の国語教師が、教え子の未来を見てしまったことをきっかけに大事件に巻き込まれるミステリーです。お2人の作風の違いが、色濃く出た2作ではないかと思います。2作とも、オビに作家生活20周年の「集大成」と銘打たれているんですよね。

次のページ
伊坂さんの『ペッパーズ・ゴースト』について雫井さんは…