さらにより詳細な分析では、自身の経歴にかかわらず、その面接担当者がどれだけ大学院生と話してきたかが評価に影響していることも分かった。たとえば、文系修士の学生を数多く面接してきた場合、そうした学生を雇いたいと思う人が多いという。
「もし本当に大学院生が人材として価値が低いのであれば、多くの大学院生を面接しても評価は高まらないはず。大学院批判が、大学院修了者のことをよく知らない担当者から発せられている可能性は小さくないでしょう。また、面接担当者がその研究について専門的な知識を有しているかによっても評価は変わります」
過小評価されがちな文系大学院。しかしそこでの学びは、社会で不要な能力では決してないという。
「問いを設定し集めたデータを分析したうえで考察を加える、研究室のメンバーで協力し合いながら実験を繰り返す。こうした教育の付加価値は教育を受けた者こそがよく知っているのではないでしょうか。問いを立てデータを集めて分析し発信するという研究の手法はどの企業でも必要なことですから、役に立たないことは絶対にないと思います」
■大学院に進んでも就活の影響で「中途半端」に
一方、学部の学生が大学院進学を選ばない背景に、就活のスケジュールの影響もあると濱中教授は指摘する。
「学部生の場合、卒論を書き始めるのは4年生の5、6月ぐらいから。アカデミックな学問に触れたり自分の思考をまとめたりして、研究の面白さに気づいたころには就活が終わっています。内定を蹴ってまで大学院に行くことは、普通はしないでしょう」
また大学院に進んだとしても、やはり就活のスケジュールによって「中途半端」にならざるを得ない状況があるという。
「就活は大学院2年目に入った時に始まりますから、大学院の学びは実質1年しかできていません。文系の場合は大学院進学の際に専門を変えることも多く、その場合、1年目は基礎修得に使われます。修士論文執筆まで経験すれば大きな成長が見込めますが、それ以前の段階で、面接担当者にインパクトのある話をするのは難しいのではないでしょうか」
冒頭の男性は、「文系大学院出身で、仕事で成果を残し、社会で活躍している人がいたら、見方が変わっていくのかもしれません」と話す。濱中教授も、「大学院修了者がビジネスに貢献した事例を発信してもらうことで、一部の面接担当者が『経験不足』を補える可能性はある」と指摘する。社会の視点の変化が進めば、状況は移行してくるかもしれない。
(白石圭)