人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、NHKアナウンサーの同期会について。
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待ち合わせは、熱海駅前の足湯付近であった。集まるのは、NHKアナウンサー三十五期生の生き残り七人と先生一人。
もともとは二十三人入局したが、女性四人のうち、二人はすでに亡くなり、男性に至っては十九人中六人のみ出席。病気療養中など欠席が三人で、物故者が十人。すでに物故者の方が多くなってしまった。
今さらながら月日の経過を感じてしまう。櫛の歯が欠けるように毎年減ってはいたが、同期会だけは生存者で続けようと暗黙の約束が出来ている。
私はこうした同窓会があまり好きではないのでパスしてしまうが、NHKアナの同期会だけは、時間の許す限り出席する。
大学を出てはじめて社会人となり二十三人が兄妹のように仲よく、先輩アナが二人、先生としてついてくれた。一人はとうに亡くなったが、残る一人の行天良雄氏が健在なうちは二年か一年に一回はやると決めている。それも泊まりがけで必ず熱海で泊まる。夕食を共にし、一室を占拠してみんなで喋る。物故者の思い出話をはじめとして笑いが絶えない。
思い出とは、思いを出すことと私は言っているが、その瞬間、死者は生き還り、生者の仲間入りをする。そのためにもと、今年は幹事役が、生者も死者も全員そろった名簿を作って配ってくれた。懐かしい顔が浮かぶ。目の前にいるように口癖が聴こえる。
こうやって死者も生者も一緒に時を過ごすことのなんという楽しさ!
それもこれも先生が健在だからだ。
行天とは珍しい名で一度憶えたら忘れない。千葉大医学部卒で、アナウンサーとして入局したがその後健康と医療、福祉の知識を生かし医事評論家として活躍。私たちは健康不安があるとすぐ行天先生に相談する。
この行天先生は、今年九十五歳。弟子の平均年齢八十五歳。驚くべきは弟子の誰よりも若々しい。というより全く変わらないのだ。見かけも頭の働きも喋りも以前と同じ。中肉中背で、歩くのも何の不自由もない。今でも一人で大好きな京都へふらりと旅をする。