米国では「インフレ」が日常的に話題に上がるようになった。景気は好調だが、庶民の生活は確実に影響を受けているAERA 2021年12月13日号で取り上げた。
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米国の経済ニュースの常套句といえば、「物価高」と「インフレ懸念」だ。
米株式市場のニュースは、常にインフレ懸念が株価の上昇を抑えていると指摘している。一方、クリスマスのギフトの出費について、例年よりもどのくらいコストがかかるのかというニュースも、もはや「歳時記」になっている。
今年は、それに急速に拍車がかかっている。市民が懸念するのは、物価上昇の背景に、新型コロナウイルスの感染拡大後の「ポスト・コロナ」経済と、原油高などによる物流のコスト増があるからだ。
筆者が住むニューヨーク市では、新型コロナ発生前に比べると、レストランのメニュー価格が確実に上がった。
■「軽食」とは呼べない
スモークサーモンのベーグルサンドは、以前は7ドルだったが、現在は9ドルになった。6ドルだったワイン1杯は同様に9ドルという「ポスト・コロナ価格」だ。消費税やチップなどを加えると、サンドイッチやベーグルでも10ドルをはるかに超す。もはや「軽食」とは呼べない状況だ。
しかし、コロナ禍で廃業したレストランも少なくないなか、生き残ったレストランは頻繁にメニューや価格を変え、ポスト・コロナの経済再開に必死で対応してきた。1年以上にわたり、基本的に自由な外食を我慢してきた市民が、それを大目に見るのも理解できる。
家賃の上昇も、米国の恒常的なインフレを下支えする。
日本と異なり、賃料は1年あるいは2年契約で更新しなければならず、その際に賃料がアップする。低所得世帯のため、行政が家主による値上げ率を管理しているアパートでも、値上げ率は「物価上昇率」を参考にしている。そのため、賃料アップが避けられない。そうした規制がないアパートだと、家主が更新前の数十%から数倍にも値上げできる。
昨年は、新型コロナによる家計の危機で、行政が家賃の滞納を一定期間免除する対策を打ち出した。家主と交渉して、値上げを見送ってもらうこともできた。しかし、経済が再開した今、家賃の上昇は、市民の懐を直撃する。