■30年ぶりの高水準
また、原油高と世界的なサプライチェーンの滞りも、価格上昇を煽(あお)る。
「コスト上昇による値上げをご理解ください」
最近、こうした表示が市内のベーカリーやスーパーマーケット、レストランで見られるようになった。入店の際、「マスク着用」を要請するポスターなどと同様に、目立つところに貼られている。
原油高は、広範囲のビジネスに打撃を与えている。バイデン大統領は11月23日、12月中旬以降、数カ月かけて5千万バレルの石油備蓄を放出すると発表した。これに先立ち、石油・ガスなどエネルギー企業がガソリン価格のつり上げを狙い、違法行為に関与していないか、米連邦取引委員会に調査を求めた。
サプライチェーンの目詰まりも、製造業を直撃している。
新型コロナの感染拡大をきっかけに供給網が混乱し、半導体や電子機器の不足に拍車をかけている。港湾労働者も足りず、行き場のないコンテナがヤードにあふれている映像は、米国のテレビに連日現れている。
とはいえ、米マクロ経済は、今のところ堅調だ。雇用面では、米国の新規失業保険申請件数は一時、52年ぶりの低水準に改善した。求人件数も過去最多水準で推移している。何よりも、好調さを示すのは、30年ぶりの高水準のインフレ率だ。
米労働省労働統計局が発表した10月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比6.2%増を記録。変動が大きい食料品やエネルギーを除くコアCPIも同4.6%増え、大幅な伸びとなった。
11月25日の感謝祭に向けて、空港は混み合い、米国民は2年ぶりの家族がそろっての感謝祭を楽しんだ。ところが翌26日、新変異株「オミクロン」の出現が株式市場を襲い、株価が急落した。
しかし、足元の経済は手堅く、市中では人々がホリデーシーズンのためにお金を使っている。店舗はシーズン前に新規に雇用を増やしているほどだ。(ジャーナリスト・津山恵子(ニューヨーク))
※AERA 2021年12月13日号より抜粋