前出の多島さんは、ごみの収集での高齢者への声かけや見守りは「直営部隊のほうが踏み込むことができる。委託がどんどん進み、できない民間業者も多い」と話す。
一方、我孫子市など、民間の委託業者と行政の連携が進んでいるところもある。委託では役割を分担し、うまく連携していく必要があると指摘する。
■ルールを守らず清掃工場が停止
高齢者のごみ出し支援に限らず、収集業務は誰もができるわけではない。前出の鈴木さんは、収集員の「コミュニケーション能力をどう確保するか」が課題という。現場では住民から「このごみはどう出せばいいのか」などの問い合わせもあり、外国人の労働者を雇うのは難しいという。住民が分別や日時のルールを守ってくれれば誰でも収集できるが、「ルールを守らない人がいる中で回していかないといけない。自分が出したごみをどうして持っていってくれないかなど、クレームへの対応もしないといけない」(鈴木さん)。
住民が分別のルールを厳守しなかったため、とんでもないことが起きた。藤井さんによると、燃やすと有害物質拡散の恐れのある水銀の体温計が可燃ごみに混入し、センサーが感知して清掃工場が停止したこともある。10年の東京・足立清掃工場は正常化まで約3カ月で約3億円、14年の東京・中央清掃工場(中央区晴海)は約4カ月で約2億円を要した。
「しっかりごみ出しをしないと、あとでお金がかかってしまう」(藤井さん)
東京都北区のごみ収集の経験で藤井さんが気づいたのは、集積所のほうが効率はいいが、住民はごみを出せば持っていってもらえると思いがち。戸別の収集を行っていた滝野川地区は、住民がごみを「しっかりと分別して出していた。責任感が違う」と感じたという。
ごみ収集で住民に声かけすると感謝されることが少なくない。多島さんは「ごみ収集の仕事にもっと誇りを持てるようになるといい」と話す。
藤井さんは、札幌市のごみ収集の現場を見たことがある。独居老人宅のごみ出し支援で、収集員が呼び鈴を押して家に入り、一言二言話をしていた。
「おばあちゃんが話をするのは唯一、週1回の清掃職員との会話。おばあちゃんは、それが楽しくて、おめかしをして待っていた」(藤井さん)
プラスチックのごみ問題などは、企業側の対応も必要になる。多島さんは「消費者側は選択ができない。資源循環するのなら、もっと上流で対応しないといけない」と話す。高齢化社会のごみ収集は課題が山積だ。ごみ出し支援を必要とする高齢者は増えている。(本誌・浅井秀樹)
※週刊朝日 2022年11月11日号