浅野和之(撮影/張溢文)
浅野和之(撮影/張溢文)

「最初に、サンシャインボーイズの相島(一之)くんに当たったら、スケジュールが合わなくて、その次に電話をいただいたんです。ちょうど私は永井(愛)さんの舞台が終わった直後ぐらいだったので、時間はあった。社長も、せっかくのチャンスだし、『ここは浅野にやらせよう』って思ってくれたんでしょうね」

 舞台は、初日を4日延期して無事開幕した。それ以降、浅野さんは自分の仕事の質が変わったことを実感した。

「おかげで、オールラウンドに動けるようになりました。自分の芝居に対する向き合い方は変わっていないけれど、テレビや映像でも、ただちょっとバランス的に必要な上司とかそういうのではなくて、台本をいただいて、『これは面白そうだ』『演じてみたいな』と思える役柄が増えてきたんです」

 三谷作品に出るようになって強く感じたのは、三谷さんの“当て書き”の巧みさだった。

「よく、俳優は役作りが大事だなんていいますけど、三谷さんの脚本の場合は、書かれた人物像のレールに、素直に乗ったほうがうまくいく。自分で変にアレンジを加えたりすると、逆に面白くなくなってしまうんです。それができるのは、普段から役者のことをものすごく観察しているからでしょう。三谷さんに当て書きされた役だと、ただ普通にセリフを言うだけで、自分と役がピッタリとハマる気がする。それが不思議ですね」

 今、浅野さんが取り組んでいる作品は、28年前、東京サンシャインボーイズが充電期間に入る前に上演された「ショウ・マスト・ゴー・オン」。自分の戯曲の再演はめったにしない三谷さんだが、「2年がかりで書いた『鎌倉殿~』が、面白いけれどあまりに陰惨な話なので、その反動で、中身は何もないけれど、ただ笑えるだけの演目を上演したくなった」と、再演(初演は91年なので、正式には再々演)の理由を語っている。

「今回は当て書きではないけれど、脚本のイメージに近い役者さんをそろえてきている。今の大河もそうですけど、実力はあるのに、世間に知られていないような人を使ったりするのが三谷さんは本当にうまいと思います。ただ脚本は、今回大胆に加筆されていて、登場人物も増えていますし、現代ふうに携帯電話が出てきたり。コロナのことにも触れられています」

浅野和之(撮影/張溢文)
浅野和之(撮影/張溢文)

(菊地陽子、構成/長沢明)

週刊朝日  2022年11月11日号

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