八嶋:そうなんです。深みがないんです(笑)。
林:三谷幸喜さんとは、いろいろお仕事をなさってますよね。
八嶋:僕は「三谷組」だと思われがちですけど、それほど出てないんです。事務所に入って最初のころ、三谷さんの「古畑任三郎」にファミレスの店員の役で出たことが印象的だったからでしょうか。
林:でも、三谷さんからの信頼が厚くて、いざというときに八嶋さんをお呼びになるんでしょう?
八嶋:使い勝手のいいやつというか、「呼んだら来いよ」というポジションかもしれません。歌舞伎に出たときそう思いました。
林:ああ、「三谷かぶき」ですね。あれは松本白鸚さんをはじめ幸四郎さん、(市川)猿之助さん、(片岡)愛之助さん、(尾上)松也さんとか、そうそうたる方々がお出になったんですよね。あのイケメンの(市川)染五郎さんも。
八嶋:「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと) 風雲児たち」(19年)という作品でしたが、全員が歌舞伎役者さんの中に僕、急に呼ばれて、あれはびっくりしました。歌舞伎の人って、自分のセリフ以外は動きをとめて、邪魔しちゃいけないという暗黙の了解があるみたいなんですよね。
林:ああ、なるほど。
八嶋:三谷さんは「ほかの人が演じてるあいだに、自分もやることがたくさんあります。彼が見本です」と僕を指名して、「とにかくいろんなことをいっぱいやれ」って言われたので、物を落としたり、転げたり、本当にいろいろやったんです。そうしたら、三谷さんが「はい、いまのはすごく悪い見本だけど、やろうと思えばあそこまでできるんです」っておっしゃって(笑)。
林:ハハハハ、そんなことを?
八嶋:三谷さんが僕に「染五郎さんを見ていてほしい」とおっしゃるので、千穐楽まで彼をずっと見てて、気になるところをアドバイスしてたんです。彼、一個ハードルを上げると必ず越えてくるんですよ。毎日いろんなことを言ったら、どんどんそれを越えてきて、千穐楽、僕、母親みたいな気持ちになって舞台のソデで泣いてました。「ステキだわ、あの子」って。