◆六法全書に精通 議員立法も多数

 実は角栄は国会議員時代、議員立法を30以上つくっているんだよね。ある時、僕が「何であなたはこんなにいっぱい議員立法をできるんだ」と尋ねたことがある。

 理由は二つあった。一つはね、彼は子どもの時から吃音(きつおん)があった。毎朝、畑に出て、六法全書を大きい声で読み上げて、彼いわく「六法全書を丸暗記した」そうだ。

 ちなみに、角栄が初めて国会議員になった当時、いつも六法全書を抱えているから、吉田茂首相がからかって法律のことをいろいろと質問したら、全部答えられたというんだ。吉田はそれに感心し、角栄をいきなり法務省の役付きにしたのね。

 もう一つの理由は「米国が(戦後に進めた)日本を弱くするための法律改正と、(朝鮮戦争の勃発で一変した)日本を強くするための法律改正、その両方を俺はよく知っているから詳しいんだ」というものだった。

 自民党都市政策調査会長としてまとめた『都市政策大綱』がすばらしい論文だった。

 これは、日本を一つの都市として考え、過密や過疎をなくす。交通の便をよくして、高速道路や新幹線、鉄道網を発達させる。それを太平洋側だけじゃなくて、日本海側もどんどん発達させる。今で言う「地方創生」みたいなもので、過疎地域、とくに日本海側をどうすれば豊かにできるかというものだった。

 総理になる前、『日本列島改造論』を出す。大ベストセラーになった。

 ただ、列島改造論と都市政策大綱には大きな違いがある。都市政策大綱は、個人の欲望を制限するものだった。日本で都市計画がうまくいかないのは、私利私欲が強いため。だから、どこを発展させるかという地名も出さなかった。

 ところが、列島改造論は地名を全部出した。例えば、東北のどこを開発する、太平洋側のどこを開発する、というように。そんなふうに地名が書かれたところは土地が値上がりしていった。私権の制限もしなかった。

 要するに、列島改造論は“医師の処方箋(せん)”だと。都市政策大綱では処方箋にならず、抽象的で誰も喜ばないと考えた。みんなが喜ぶように地名もはっきり出し、公共のために私権を制限するのもやめた。

 田中角栄という人物は、小学校しか卒業してなくて、総理大臣になった。前代未聞のことで、こんなケースはこれからもないだろう。

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