枠に留まらない活躍で注目される、モデル・俳優の中山咲月さんがAERAに登場。トランスジェンダーを公表したことで、周囲の見え方も変わったという。AERA 2021年12月27日号から。
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「いまの声の方が、自分は好きなんです」
そう朗らかに話す声は、低く落ち着いていて心の深いところまで響いてくる。
自分はトランスジェンダーではないか。今年に入ってそう考えるようになり、葛藤の末、男性として生きることを決めた。日々の生活のなかにホルモン療法を取り入れると、声は徐々に変化していった。低い声はすんなり身体に馴染み、居心地のよさにもつながっていった。
「ずっと“すわりづらさ”みたいなものを感じていました。もとの場所に戻ったような感覚もあります」
モデルの仕事を始めた10代前半、かわいらしい服を着てポーズをとるたび、「女の子らしくしなきゃ」と自分に言い聞かせた。どこか作られた感じがあったのではないか、といまは思う。
幼い頃から仲のよかった弟が思春期を迎え、身長が急激に伸び、声変わりが始まると、男女の違いを目の当たりにし、どんどん苦しくなっていった。
「居場所はここじゃない、と感じました。少しずつ好きな服を着るようになって、『あれもこれも変えたい』と思うようになり、いまの自分に辿りついた。ずっと心と体の性が一致していなかったんだろうな、と思います」
“トランスジェンダーの代表”のように思われるのは荷が重い。自分のことを知ってくれた人が、「実はトランスジェンダーだったんだ」と後から何げなく気づいてくれたら嬉しいと思う。
声が変わったことで、以前よりさらに「歌うこと」への興味が増した。
「弟が『いまの声で聴いてみたい曲があるから、また一緒にカラオケに行こう』と言っていて。早い段階から変化に気づいていた弟は、『安定してきたね』なんて言ってくれています」
歌の仕事にも挑戦していきたい。いま、そんな夢を抱いている。
(ライター・古谷ゆう子)
※AERA 2021年12月27日号