「脳波が平坦だと言われたことは、とても重かった。でも帆花は確実に成長しているんです。『声』と私たちが呼ぶ音が出せるようになって、イヤなときは黙るし、いいときは声を出す。親の勘違いじゃなく、帆花には意思があると思わざるを得ないんです」
初めは偶然かと疑ったが、帆花ちゃんは気分によってサチュレーションモニターのアラームを鳴らすことも覚えた、という。
「病院嫌いで、診察のたびに血中酸素濃度が下がってないのにピーピー音を鳴らして周りを焦らせる。嬉しいときも鳴らす。絶妙なタイミングなんです」
映画は特別支援学校小学部に入学するところで終わるが、その後も彼女はすくすくと成長し今は中学部に所属。週3回の訪問授業を楽しみにしている。
「動物が好きで環境問題にも興味があるようです。温暖化や海洋プラスチックゴミの動画を授業で見ると、アラームを鳴らして喜んでいますね」
映画の中で、まだ幼い帆花ちゃんと過ごす理佐さんが「世界に帆花とふたりきりな気がする」と語るシーンがある。だが、今や彼女は学校の先生や友だちとも、表情や声、時にはアラームを使ってコミュニケーションを取っている。
「私を介さず人間関係を築いている帆花をみて、やってくれたなぁと感動します。この先も心配は絶えない。でもどんなときも健気に生きる帆花に、私たちは元気をもらうんです」
帆花ちゃんが示すように、生きるのは大変なことだ。でも、帆花ちゃんが教えてくれるように、生きるのはきっと楽しい。
(ライター・玉居子泰子)
※AERA 2021年12月27日号