事情を確認し、可能な範囲で修正の指示を出していく。通常であればピリついたムードになりそうな状況で、SKY-HIは突然マイクを握ると、アナウンサーのような口調で、実況しだしたのだ。
「……おっ、ステージ横のBMSGのロゴが動きましたね。おっと、ここで情報が入ってまいりました。日高はこの会場で成人式を挙げたようです」
そこかしこで笑い声があがる。担当スタッフが修正作業に苦労している様子を見て取ると、さりげなくリハーサルの終わり時間を確認し、現状でのベストを見定め、気持ちよく指示を出した。
「よし、これで行ってみましょう!」
その数分後、開場時刻になった。この日のチケットはすでに完売。観客たちが次々と入場してきた──。
これが、ステージ直前に取材したすべてだ。
公演後、再びSKY-HIに時間をもらった。聞きたいことはたくさんあった。なぜ、彼らをいまのような形でプロデュースしようと思ったのか。なぜ、本番前にMCの話題しか出さなかったのか。
「僕がやっていることは、『やさしいリベンジ』なんです」
SKY-HIから飛び出したのはそんな不思議な言葉だった。
「僕がデビューした18歳のころ、歌やダンスのノウハウを教えてくれる人はいなかった。喉の手術もしましたし、がむしゃらなトレーニングで故障もした」
自分もこういうふうにしてもらいたかった、こんなことができていたらもっと伸びていたのに。そんな「負の遺産」がたくさんあったという。
「30歳を過ぎていろいろなことがわかるようになって、リベンジするには、この形しかなかった。自分がほしかったものがあることで、どういうふうに素晴らしい才能が開花していくかを世の中に証明する。そのひとつの形が、BE:FIRSTです」
■自分の言葉で伝えて
本番前、MCしか言及しなかった理由も、極めてフラットに接する理由も、そこにあった。
「ライブ前は場を和ませる雑談でいいんです。歌やダンスに関しては普段から話しているし、彼らは頑張らなければという気持ちでいっぱいだし、一公演ごとによくなっていく時期だから」
MCについての言及が多くなるのは、「しゃべることのできる人になってほしい」と強く思っているからだという。アーティストが語った言葉は、ライブに来た人の胸に確実に残る。SNSにも、MCで何を言ったかを書くからだ。
「ライブはコミュニケーションです。極論すれば、MCで『ありがとうございました。みんな愛してるよ』と言えば満足してもらえるかもしれない。でも、それは僕は嫌。BMSGのアーティストもそれを嫌だと思ってくれる人たちが集まっていると思う。歌を歌っている以上、自分の言葉で伝えてほしい」
SKY-HIはBE:FIRSTにとって初のロックフェス、4月の「VIVA LA ROCK」でも、さまざまなアーティストが出演するなかで「MCでオーディエンスの心をつかむ」という課題を与えていた。ワンマンライブでのMCも同様に重要で、こちらはBE:FIRSTへの思いをより深くしてもらいたいという。(ライター・小松香里)
※AERA 2022年11月7日号より抜粋