「『明るく元気に』。球団のイメージであったり、これまでやってきたわれわれの野球であったり、そこは良き伝統として続けていきたいですね。これがスワローズだよ、と」
時は流れて2020年。投手コーチから二軍監督を経て、一軍の指揮官となったばかりの高津監督に「自身が考えるヤクルトらしさ」を問うと、そんな答えが返ってきた。
「勝負をしてるので、笑いながらとかエンジョイしながらっていうのはなかなか難しいことです。ただ、野球選手であるということを幸せに思わなきゃいけないですし、ユニフォームを着ていることを幸せに思わなきゃいけないです。それが『明るく元気に』っていうところにつながってくるのかなと思います」
だが、就任1年目は無念の最下位。シーズン中に「みんなが元気でいい状態で、お祭り騒ぎの中で野球がやれる日、やれる瞬間を待ってます」と話していた“理想の野球”が実現することはなかったものの、それでもチームとしての明るさまでは失っていなかった。
巻き返しを期した今年、2021年もベンチでは主砲の村上宗隆が大声で選手を鼓舞し、新たにキャプテンとなった山田哲人も、これまで以上に声を出すようになった。センターのレギュラーに定着した塩見泰隆は、ダグアウトで迎えられる際に両手で軽く拳を握って手首をクッと曲げる通称「フェラーリのポーズ」、新外国人のホセ・オスナはタイムリーを打った後などにベース上で両手を掲げてウェーブさせるポーズを浸透させ、選手たちのそうしたパフォーマンスも明るいムードに輪をかけた。
ただし、今まで以上にヤクルトナインが明るく、楽しそうに見えるようになったのは、やはりリーグ優勝、そして日本一にまで上りつめたことが大きい。そこは1990年代のヤクルトが、野村監督の下で勝つほどに明るく、楽しそうになっていくように見えたのと、どこか重なる。
高津監督が願っていた「お祭り騒ぎの中で野球がやれる日」 が訪れたように見える今、目指すは新たな黄金時代の構築。そのためにも2022年、“お祭り野球”でリーグ2連覇、そしてあの野村監督の時代にも成しえなかった2年連続日本一を狙 う。(文・菊田康彦)
●プロフィール
菊田康彦
1966年生まれ。静岡県出身。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身。2004~08年『スカパーMLBライブ』、16~17年『スポナビライブMLB』出演。プロ野球は10年からヤクルトの取材を続けている。