一方、犬については、私はあまり付き合いがありません。実は、吠えてうるさいところが苦手なのです。しかし、犬をずっと飼っている愛犬家が病院のスタッフにいるので、話を聞いてみると、犬もなかなかのもののようです。
とにかく犬は、人を思いやる行動をとるというのです。それは、媚びるということではなく、人の気持ちに寄り添うということなのだといいますから、感心します。それができない医者が世の中に多いことを考えると、見習いたいものです。そういえば、介護施設や病院でセラピー犬が活躍していることがありますね。犬はその本性で、人を癒やすことができるのかもしれません。
私は、猫、犬に共通してかなわないと思っていることがあります。それは過去や未来に執着したり、不安を持ったりしないところです。これは、人以外の動物はみんなそうなのです。首から下が麻痺して動けなくなったチンパンジーが、人であれば絶望してしまう状況なのに、たんたんと生きて回復したという話を聞いたことがあります。
つまり、今を生きることができるのです。いつでも死ねる覚悟で、今日を生きる。それが一番学びたいところです。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2021年12月31日号