ただ、両病人には違いが二つある。その一が首相交代劇だ。英国では、このドラマが超高速で演じられた。日本では、このドラマがないまま、ダラダラと現状維持が続いていく。この違いの要因は、国債相場の動きにある。英国では、財源無き無謀なばらまき政策に、国債相場がそれこそ劇的に反応した。日本の国債相場は、凪(なぎ)状態のまま。それもそのはずだ。日銀がGDPの規模に匹敵する額の国債を抱え込んでいるのである。相場がまともに状況に反応するわけがない。今の日本の国債市場は統制市場だ。それを、今回の英国の政治ドラマが世界に見せつけた。

 両病人の違いその二が、政治家の正直度だ。高速退場したトラス前首相は、自分の目指すところは、「一に成長、二に成長、三に成長だ」と絶叫した。この三大目標のためなら何でもする。狙うのはトリクルダウンだ。低所得層には、ひとまず我慢してもらう。そう言い放ってはばからなかった。「成長と分配の好循環」だの、「社会的課題解決と経済成長の二兎(にと)を実現する」だのと、逃げ口上ともアリバイづくりともつかない御託(ごたく)を並べはしなかった。まだ、マシ。

浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演

AERA 2022年11月7日号

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