登場から17年経過し、経年劣化に伴う上記の更新も困難になった。さらに車体のアルミ合金押出型材ダブルスキン構造は、「剛性、軽量化、遮音性、断熱性に優れている一方、溶接など熱を加えての補修や修正が非常に困難」(小田急)であることも、引退の要因となった。
■50000形VSEは“最後の王道車両”となるのか?
小田急の特急ロマンスカー車両は、展望室、連接構造、走る喫茶室、補助警報音の“4点セット”が観光客やレールファンに親しまれた。連接構造車両は1両あたりの長さが短いことから、「ホームドアに適合できないのでは?」と思う人もいるだろう。
小田急によると、50000形VSEの引退は先述した主要機器の更新が困難なことが理由であり、「ホームドアの設置に関連するものではない」という。仮にJR西日本などが設置を進めているロープ式の可動柵を導入すれば、クリアできると筆者もみている。
残念なことに50000形VSEの車内販売は、走る喫茶室からワゴンサービスに切り替えたあと、21年3月13日のダイヤ改正で全廃された。展望室つきの70000形GSEは当初から走る喫茶室がなく、車両自体も観光輸送と通勤輸送の両方を兼ねている。気軽に乗れるメリットがあるものの、“特別感”という点では50000形VSEが勝る。
小田急によると、50000形VSEの引退に伴う70000形GSEの増備、新型車両の導入はないという。ただ、「ロマンスカーは当社を象徴するものであり、日々研究等を続けてまいります」とのこと。あらゆる点で50000形VSEを超える車両の登場を心待ちにしたい。
(文・岸田法眼<取材協力:小田急電鉄>)
岸田法眼(きしだ・ほうがん)/『Yahoo! セカンドライフ』(ヤフー刊)の選抜サポーターに抜擢され、2007年にライターデビュー。以降、フリーのレイルウェイ・ライターとして、『鉄道まるわかり』シリーズ(天夢人刊)、『論座』(朝日新聞社刊)、『bizSPA! フレッシュ』(扶桑社刊)などに執筆。著書に『波瀾万丈の車両』『東武鉄道大追跡』(アルファベータブックス刊)がある。また、好角家でもある。引き続き旅や鉄道などを中心に著作を続ける。