そこで最近ブームなのが「明らかに使ってないもの」をもらって帰ること。私が子供時代によく使ってた昭和の台所用品が狙い目だ。食器棚の奥を覗き込むと、そんな鮮やかな柄のプラスチックケースとかが大事にしまってある。当時はそれがどんなに安いものであれ、新しいものがやってくるたびに「カネモチ」になった気がして嬉しかった。我が一家の青春時代。一生懸命育ててくれた若き両親の記憶を思い出すのは幸福なひと時である。
ってことで数年前、懐かしいオレンジ色の蓋がついたバターケースをもらってきた。冷蔵庫がないので私の家にバターはないが、味噌ケースにぴったりかと。で、愛用していたら蓋の縁がポロリと欠け、さらには底から茶色い液が染み出てきた。ついに経年劣化でひび割れたのだ。
ここまで共に過ごすと捨てるのも忍びがたいが、壊れたものを人様に差し上げる訳にもいかず、やはり思い切って捨てることにした。ここまで使い切ったのだからケースも本望と自分に言い聞かせる。人を見送るのも大変だがモノを見送るのも大変だ。このようなことを繰り返してジタバタしているうちに我が人生も終わっていきそうである。
ま、それも案外平和かもしれませんね。
◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2022年10月24日号