霊感商法や高額献金の被害に遭ってまで、なぜ旧統一教会を信じるのか。背景の一つに、伝統的な宗教の「葬式仏教化」を指摘する声もある。AERA 2022年10月24日号の記事を紹介する。
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第3子を妊娠中に夫を自死で失った衝撃。ひとりで子育てに奮闘中、長男が大きな手術を繰り返した末に片目を失明するという悲痛。難関大学で学んだ経験と知識を生かす場がない悔しさと孤独──。
すべて安倍晋三元首相の銃撃事件で逮捕された山上徹也容疑者(42)=殺人容疑で送検=の母親の身に降りかかった出来事だ。詳しい経緯はわかっていないが、母親は1991年に統一教会(現・世界平和統一家庭連合)に入信。総額1億円以上の献金をして自己破産した。
「最終的に絶望からの救いの砦(とりで)は宗教しかありません。問題を解決する過程で法律的なサポートやカウンセリングなどの手法があるけれど、ビジネスではない関係が結べる組織は宗教以外にはない」
と話すのは、浄土宗正覚寺(京都市)住職でジャーナリストの鵜飼秀徳さんだ。山上容疑者の母親が宗教を心のよりどころにしたことには一定の理解を示す。
■本来は絶望からの救済
だが、なぜ、入信した先が旧統一教会だったのだろうか。
文化庁の「宗教統計調査」によると、2020年12月末日現在、仏教信徒は約8400万人で、寺院数は7万6815。神道の信徒約8800万人で、神社数は8万884だ。日本のどの町にも寺や神社がある。山上一家が暮らした奈良県には法隆寺をはじめ多くの寺院があり、いわずと知れた日本の仏教のふるさと。僧侶とすれ違うのも日常だ。
「本来の仏教は絶望からの救済が目的でした。けれど、檀家(だんか)制度にあぐらをかき、檀家以外の人には敷居の高い存在になっているところも。葬儀は形骸化し、納骨堂ビジネスに躍起になっている寺もある。そこに救済はなく『葬式仏教』と揶揄(やゆ)されるようになってしまった」(鵜飼さん)
95年、オウム真理教による地下鉄サリン事件が起きた。このとき、元信者の「寺は風景でしかなかった」という言葉が取り上げられた。初詣や盆の墓参り、合格祈願に七五三、葬式や法事。「当たり前にある文化」になったゆえの皮肉を象徴する発言だった。寺や神社は、何かに悩み、深く絶望している人が足を運ぶ場所として認識されにくくなっているのだ。