
誰でも経験がある海辺や川原に落ちている石ころを拾う行動。それが今、密かなブームとなっている。宝物探しのように拾う楽しみや、拾った石を仲間と愛でる楽しみを深掘り。AERA2022年10月3日号の記事を紹介する。
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拾ってどうするの?と聞かれることもある。ブログで「石の人」を名乗る愛知県のデザイナーの男性がそんな時に紹介しているのが自分で考えた「十二石」という遊びだ。
「夏の十二石」「モノクロの十二石」などとテーマを決めて、12個ピックアップする。複数で石を見ると、単体で見るのとまた違った趣があるという。同僚と会社の休み時間に各自のベスト12石を見せ合う「石バトル」をしていて思いついた遊びだ。
石拾いでは、あまり拾いすぎず本当に気に入った数個だけを持ち帰る。石ブームを牽引するエッセイストの宮田珠己さんも「ないならない。妥協しないことが大事」と同じことを言っていた。気に入ったものだけを愛でるのがいい、という理由もあるが、環境的な理由もある。石は長い年月をかけて自然が作り出したものだ。拾いすぎてしまったら、“石態系”(石の生態系)が壊れてしまう。同じ理由から、もし拾った石が不要になった場合は元の海岸に返すことにしている。
ブームは国内だけにはとどまらない。エイヴリー・グレゴリーさんは米ロサンゼルス在住のアーティスト。インスタグラムには6万6千人のフォロワーがいる。お気に入りの石をキャンバスに数十個並べて写真に撮ったものが彼女の作品だ。模様や形を揃えたり、白から黄色、そして緑へとグラデーションを作って並んだ石たちは、はっとするほど美しい。
「地球が無意識に作り出した素材を、アートの文脈に置き換えて見せています」とエイヴリーさんは自身の作品について語る。
■石は思い出そのもの
子どもの頃から30年以上も石を集めているというエイヴリーさん。石そのものよりも探す行為が彼女にとってより意味があるという。
「ある石を見つけて、手にとって、指でこすり、ポケットに滑り込ませる。狩りのようなものであり、歩く瞑想のようなものでもあります。呼吸を数え、心を空っぽにして大地をスキャンするように宝物を探します」
拾う石についての基準はないが、「格別だ」と思えるものでなければ拾わない。それはほとんど直感的な感覚だが、ピンクやグリーンの石、コントラストの強い石、サイズに対して重さのある石が好みだという。