週刊朝日 2022年10月7日号より
週刊朝日 2022年10月7日号より

 円安が進めば海外の保有資産の価値はかさ上げされる。一方で、外貨を調達したり為替リスクを回避したりするコストは上がる。そうしたコストが有価証券そのものの利息や利回りを上回り、「逆ザヤ」が生じているものもすでにあるという。

 ただし、これまで見てきた含み損の拡大が即、地銀の経営危機や金融不安につながるかといえば、必ずしもそうとは言えないようだ。

 前出の伊藤さんはこう解説する。

「有価証券で生じた含み損については、海外で活動する国際統一基準行は、自己資本比率規制上のルールにもとづいて自己資本から差し引く必要があります。一方で、国内基準行の地銀は、リーマン・ショック後にできた特例で、含み損が生じても規制上の自己資本から差し引かなくてよい決まり。このため決算で実際の損失として表面化するのは避け、含み損を抱え続けることも多い」

 国際統一基準行にあたる地銀は、横浜銀行(横浜市)や千葉銀行など規模が比較的大きな11行に限られ、残りの大半は国内基準行だ。

 とはいえ有価証券の含み損が膨らめば、財務的な余裕度は狭まる。

 含み益がある有価証券は、売却して得た収益をさらなる運用や不良債権の処理などに充てられるし、決算をよく見せたり、経営体制を強化したりする元手にもできる。

 有価証券の含み損を実損失として処理するケースも出てきた。例えば、山口銀行(下関市)を傘下に持つ山口フィナンシャルグループ(FG)は早めの損切りに踏み切り、22年3月期決算は最終赤字となった。

 地域の金融機関の動向に詳しい東洋大学の野崎浩成教授(金融論)は言う。

「各行とも、一定の下落率を超えたら機械的に売却するといった運用ルールを定め、対応を進めています。22年3月期決算をみても、含み損を抱えた有価証券を減らす動きも少なくなかったようです。ただ、地銀によって対応に差があるのは確か。それぞれが抱えるリスクや運用部門の意向、決算見通しとの兼ね合いなどによって、個別に判断していくことになるでしょう」

 経済環境の大きな変化に、借り手である企業や消費者も対応を迫られている。そうした取引先に、救いの手を差し伸べられるのか。有価証券の運用の優劣も、各行の対応力を左右しそうだ。(本誌・池田正史)

週刊朝日  2022年10月7日号

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