
「音楽性のことで、山が主張したことはありません。私がこんな音楽をしたいと提案すると、『ええんちゃうか』と従うんです。これが、長いつきあいが出来てる理由だと思います」
古今東西、数々のバンドが、音楽性の不一致で解散している。2人に不一致はない。
「山のすごいところは、おもろいアイデアを出してくるんです。ライブで、カポエイラを取り入れたら、ジャグリングをしたら、とか」
山は言う。「前へ進む、その一心です」。なるほど、ラグビーで培った精神ですね。
大学を卒業するにあたって、杉田は大阪に残ることを決めた。そう聞いて、山も大阪に残ると決めた。大阪に本社があり、転勤がない。そんな会社を探し、ピーナッツ・クラブを知った。ゲームセンターのクレーンゲームの景品などを開発しているという。ゲーセンに行った記憶がない山には、新鮮だった。ピーナッツ社はもともと、金型づくりの町工場。大手メーカーが工場をアジアに移す「産業の空洞化」を受け、形を変えていた。
入社し、ゲーセンへの景品の売り込みをする。電話帳にのっているゲーセンに電話をかけた。「いらん」「間に合ってる」、電話をガチャン。その連続だ。ピーナッツ社の社長に居酒屋に呼び出され、何時間も怒られた。新しい指示を次々に出され、できなくては怒られた。ライオンは子どもを千尋の谷に落とす、のことわざを地で行かれた。
その中で、山は知ったことがある。
ほしがるものを開発すれば、営業しなくても買ってくれる。当たり前だと笑ってはならない。これが、いまの山につながる。
(文中敬称略)
(文・中島隆)
※記事の続きはAERA 2022年10月3日号でご覧いただけます。