長距離砲が直球への対応に苦しむのは決して珍しいことではない。村上と同期入団の清宮幸太郎(日本ハム、23)、安田尚憲(ロッテ、23)が伸び悩んだ大きな要因は直球をはじき返せないことだった。特にアッパースイングの打者は高めの直球が泣きどころとなる。差し込まれないようにミートポイントを前にすると、変化球に泳がされて打撃フォームを崩す。
村上も壁を乗り越えるのに時間を要すると思われたが、自らの長所であるフルスイングを貫いてすぐに頭角を現す。19年は143試合出場で打率2割3分1厘、36本塁打、96打点。高卒2年目の本塁打最多タイ記録、打点は最多記録を更新する。
一方で、日本人ワースト記録の184三振を喫し、打率は規定打席数に到達した選手の中で最下位だった。150キロ以上の快速球には依然としてバットが空を切る場面が目立ち、対左投手の打率1割9分8厘も克服しなければいけない課題だった。
■超一流の分岐点は20年
ここで足踏みせずに、一気に駆け上がる。バレンティンがソフトバンクに移籍し、開幕から4番を託された20年は責任感も増した。新型コロナウイルス感染拡大による120試合制の中で全試合に出場し、打率3割7厘、28本塁打、86打点。三振はリーグワーストの115だったが、前年より少なくなり、四球も87と増加。選球眼に磨きをかけ、ボール球に手を出さなくなったことで打率が一気に上がった。懸案だった対左投手も打率2割8分8厘と前年より9分上げて、リーグトップの得点圏打率3割5分2厘をマークする。
民放のテレビ関係者はこう指摘する。
「村上が超一流選手の階段に足を踏み入れた分岐点が20年だと思います。この時から自分よりチームのことを強調する発言が増えるようになった。青木宣親(40)、山田哲人(30)という良きお手本となる先輩たちの影響も大きいと思います。主力としてチームを引っ張る自覚が芽生えたのではないでしょうか」
昨年も3年連続全試合出場で打率2割7分8厘、39本塁打、112打点で自身初の本塁打王を獲得。史上最年少となる21歳7カ月で通算100本塁打に到達し、チームも前年の最下位からリーグ優勝、日本一に駆け上がった。村上はセ・リーグで史上最年少の最優秀選手(MVP)を受賞した。
今季は150キロ以上の直球もきっちりミートする確率が上がり、リーグ連覇に大きく貢献した。令和初の三冠王、シーズン最多の60本塁打……。偉業を達成しても満足しないだろう。球史に名を刻む大打者のさらなる進化が楽しみだ。(ライター・梅宮昌宗)
※AERA 2022年10月3日号より抜粋