岸田政権は原発の新増設検討など「原発回帰」の方向性を鮮明にした。2011年の東京電力福島第一原発事故以来の大きな政策転換だ。だが、数々の問題があり、専門家からは厳しい声が聞かれる。AERA 2022年9月26日号の記事を紹介する。
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「あらゆる対応を採ってまいります」
岸田文雄首相は8月24日の第2回GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で、原発回帰を進める方針を明らかにした。東京電力福島第一原発事故から歴代政権は原発依存度を下げると言ってきたが、首相は新増設にまで言及し大きな転換点となった。
柱は二つある。一つは、すでに再稼働している10基に比較的手続きの進んでいる7基を加え、計17基の再稼働を進めること。これは今後数年間の危機克服のためと説明した。二つ目は、さらに長期的にも原発利用を続けるため、新型炉の新増設や既設炉の運転期間の延長にも踏み込んだ。
東電のエリアでは3月に電力の需給逼迫警報が発令されるなど、電力の余裕がない状態であるとされている。液化天然ガスの輸入価格高騰などから電力料金の値上げも続き、東電管内の標準的な家庭では1年前と比べて約3割も高い。菅義偉・前首相が宣言した2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの実質排出ゼロ)の実行のためにも、原発が不可欠だというのだ。
■ロシアの天然ガス提供問題、言いやすい状況と判断
「電気事業連合会や日本経済団体連合会など、古い産業の方々を中心とした業界の要請を受けた自民党議員からの圧力で、そのうち表明するとは思っていた。原発を推進すると言い出せば支持率に響くので強い安倍政権でもできなかったが、燃料の高騰やロシアの天然ガス供給問題を見て、言い出しやすい状況になったと判断したのだろう」
こう説明するのは、北村俊郎さんだ。北村さんは東海第二原発(茨城)などを運営する日本原子力発電の理事・社長室長などを歴任し、「原子力村中枢部」の振る舞い方を知悉している。