AERA2022年9月26日号より
AERA2022年9月26日号より

 まず、国葬に「賛成」の意見を見ていくと、目立ったのは安倍氏の国への貢献だ。

「インバウンド政策、大胆な金融緩和で、どん底の日本経済を立て直した」(48歳、投資家・コラムニスト、男性)

 一方、「反対」意見で多かったのは、決定過程が不透明で国葬に法的根拠がない点だ。

「法的根拠のない催しに税金投入するなら、国会を無視しないで。そこに一番モヤモヤする」(62歳、派遣社員、女性)

「長期政権だったからとか意味が理解できない」(54歳、看護師、女性)

 という声が多く寄せられた。

■法整備は具体化せず

 国葬には明確な法的根拠がない。戦前の1926(大正15)年に制定された「国葬令」は、日本国憲法の施行の際に、国民主権の観点から47年に失効した。吉田茂の国葬は、当時の佐藤栄作内閣が戦後日本の復興に尽力した吉田の業績などを踏まえ、国葬を閣議決定した。だが、法的根拠がないことから野党が批判し、政府の国会答弁には将来の立法に前向きなものもあったが、具体化しなかった。

 今回、法律がない中、どうやって国葬を実施するのか。政府が唯一示す法的根拠が、2001年に施行された「内閣府設置法」だ。同法は、内閣府の所掌事務(基本的な仕事)を定めたもの。その第4条3項33号に、内閣府の所掌事務として「国の儀式並びに内閣の行う儀式及び行事に関する事務に関すること」との規定がある。「国葬」と明記されていないが、政府はこの条文を根拠に、国葬を「国の儀式」と定義した。

 だが、成蹊大学の武田真一郎教授(行政法)は、内閣府設置法は国葬を実施する法的根拠にはならないと指摘する。

「内閣府設置法は、役所を設置して、所掌事務を割り当てることを目的としている。所掌事務というのはその役所に割り当てられた仕事を例示しているだけで、その仕事を具体的に実施する権限を付与しているわけではない。具体的な権限行使のためには、別に法律の規定が必要だと解されている」

 例えば、財務省設置法は、国税庁を設置し国税に関する事務を所掌事務としているが、この法律を根拠として国税庁が課税処分をしたり税率を変更したりすることはできない。同様に、内閣府設置法は国葬を実施するための根拠法令ということはできないという。

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