秋葉原の歩行者天国を歩く。専務の糠谷(右)とは石森が始めたレンタルサーバーサービスを通して知り合ってから、20年近い付き合いになる(撮影/倉田貴志)
秋葉原の歩行者天国を歩く。専務の糠谷(右)とは石森が始めたレンタルサーバーサービスを通して知り合ってから、20年近い付き合いになる(撮影/倉田貴志)

■自らの特性に合わせて 画面表示を最適化できる

「通常とは異なる色覚特性を持つ人も、弱視や目が見えない人も、すべてのユーザーが情報に素早くアクセスできること、情報格差なく自分に合った手段や形式で情報を得られること。そのために進めてきた開発です。配色ひとつとっても、色でユーザーが迷わないことは非常に重要です。どんなに情報配信を高速化しても、画面に表示された色でユーザーが迷えば、高速化で生み出した時間はあっという間に過ぎ去ってしまいます」(石森)

 これまでは、一つの配色で通常色覚のほか、色覚異常(色覚多様性)のなかで最も多い赤と緑が見分けにくいタイプの人にも配慮した設計を進めていた。しかし、それでは青と黄色が見分けにくい色覚特性には対応できない。また、ユーザーからは「ハイコントラストすぎて刺激が強い」という意見も、逆に「コントラスト比が足りない」という意見も寄せられていたという。あまねくユーザー一人ひとりが、自らの特性に合わせて画面表示を最適化できることをめざした更新だった。

 リリースから3年を経て、アプリのダウンロード数は307万回、ツイッターフォロワー数は176万人に上る。アクセシビリティーへの妥協のない配慮も含め、特務機関NERVは「社会インフラ」ともいえる存在だ。

 気象庁職員の長田泰典は、石森とは10年近い付き合いだ。現在は大気海洋部気象リスク対策課の課長補佐として、防災気象情報の運用を担う。

「ゲヒルンさんのような事業者は、マスメディアと同様に国民への情報の伝達を担っていただいている存在です。我々がつくった情報を届ける彼らがいなければ、人命を守ることができません。リアルタイムで変わりゆく情報を伝えるのはとても難しく、間違えたときの影響も甚大、防災はお金にもなりにくい。今日の特務機関NERVは石森さんに強い熱意と、それを実現するスキルがあってできあがったものだと思いますが、よくぞここまで……という感謝と尊敬の気持ちが大きいです」

 長田が言うように、特務機関NERVが社会インフラへと育っていったのは、石森の信念と技術の両輪がかみ合った結果だ。

 幼いころから、技術者の片鱗を見せていた。

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