延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
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 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は「ビーチ・ボーイズの名作『ペット・サウンズ』」について。

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 村上春樹さんが村上RADIOで語っていた。

「(ビートルズの)『ラバー・ソウル』を耳にして、こんな素晴らしい音楽があるのかと驚愕(きょうがく)したのがビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンです。そして『おれたちも、うかうかしていられないぞ』と一念発起して、新しいアルバムの制作に取りかかり、それは“Pet Sounds”『ペット・サウンズ』という傑作アルバムに結実します。(略)『ペット・サウンズ』を耳にしたポールとジョンはショックを受け、今度は彼らが『うかうかしていられないぞ』と、『サージェント・ペパーズ』の制作にとりかかります」(2022年5月29日放送)

 20代の若いロックミュージシャンが大西洋をはさみ、しのぎを削ったエピソード。ビートルズはポールとジョンの共同作業だが、ビーチ・ボーイズは、ブライアンひとりスタジオに籠(こ)もって。

 そんなブライアンが主人公のドキュメンタリー『ブライアン・ウィルソン/約束の旅路』を、音楽ディレクター土橋一夫と観に行った。

「僕には友だちがいなかった。僕の人生はシンプルで控えめ、友達とワイワイ騒ぐのは苦手だし」

 ブライアンは静かに語る。

「ブライアンはサーフィンはできなかったんだよね」と土橋に訊くと「海に入るのも嫌いだった。インタビュー嫌いで人見知り。映画ではよく喋(しゃべ)っている風だけど」

 親しい編集者の車の助手席に乗り、思い出の場所を巡って記憶の断片を振り返るブライアン。

 ビーチ・ボーイズのライナーも手がけ、ラジオ界でビーチ・ボーイズ博士と呼ばれる土橋は「父との葛藤やドラッグ、弟の死、離婚……。彼の評伝は幾つかあるけど、ここまで自分の言葉で語っているものはない」と映画を振り返った。

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