落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「ドン」。
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東京五輪におけるスポンサーからの収賄容疑で逮捕された高橋治之容疑者は「スポーツ村のドン」と呼ばれていたらしい。
「スポーツ村」。一見、実に楽しげ。オランダ村、ドイツ村の系譜。無駄に長いすべり台や古タイヤでこしらえた遊具が子どもに人気の地方アミューズメントパーク感ありだが、現実は魑魅魍魎が巣をくうところらしい。でも村。そして「村」なのに「村長」でも「庄屋さま」でもなく「ドン」。「ドン」はステーキ店も経営していたという。まさに「ステーキのどん」(違う)。そこでは夜な夜な密談が繰り広げられていたのだ。もしも「庄屋さま」だったら「庄や」のフランチャイズオーナーだったかもしれない。「ハイ、よろこんで!」とお客さんを迎える「ドン」は健全過ぎる。「ドン」は「お通しカット」などさせない。もちろん「ドン」は肉しか食わないはず。ホッケの開きで密談が出来るか!(「村長」なら「村さ来」かもしれないが、ここはお通しカットNGです)
ドン高橋、「貧すれば鈍する」ということはなかろうが、曇天模様の空の下、自らのステーキ店にAOKIのドンこと前会長を招き、貪欲にもスポンサードの相談。金襴緞子の織物を敷いた、ドン引きするくらいの豪奢な部屋で、まずはドンペリで乾杯。おつまみは乾き物のドンタコスにどんどん焼きと、ドン荒川ばりの庶民的な人当たりの良さを見せるドン高橋。「まぁ、ドンドンやってくださいな。日本酒がよけりゃ黄桜呑もありますから」。ひとしきりどんちゃん騒ぎをしてしばしの沈黙……相対するドンとドン。