まさにここからが大一番。さながら博多どんたくのフィナーレか、はたまたウィンブルドンの決勝といった様相だ。AOKIのドンを店のどんつきまで壁ドンする勢いのドン高橋。ドン・キホーテばりの実行力、ドン・ガバチョばりの統率力、ドン・キングばりの交渉力、ドン・フライばりの圧力、ドン・中矢・ニールセンばりの瞬発力、紀州のドン・ファンばりの精力、ドン松五郎ばりのどんぐりまなこの御愛嬌でここまでのし上がってきたドン高橋。だが若かりし頃は、その鈍足のせいで出世レースのどん尻で涙し、周りからは「鈍臭いヤツ」と罵られながらも、いつかトップをと夢見つつ、どん兵衛のきつねうどんで空腹を満たす日々。KANの「どーんなーに困難でー」という歌声に癒やされ、「ドンマイ!」と自らを慰めていたらしい。いまやドン小西デザインの服を纏う「電通のドン・コルレオーネ」の彼に出来ないことなど何も無かった。
……かに思われたが、そこに「ドント・収賄!」と東京地検の家宅捜索。「まさかそこまで」なんて、どんぶり勘定が生んだ大どんでん返し。まるでノドンとテポドンを同時にドーンと打ち込まれたようなハルマゲドン。今、拘置所に居るドン高橋は、どんな思いで差し入れのカツ丼を食べているだろう?
と、ここまであくまで私の妄想。が、ここに来てドンの証言で森喜朗元首相の名前も出てきた。この先、想像しただけでも「ちむどんどん(胸がドキドキ)」。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!
※週刊朝日 2022年9月16日号