これまで経済の項目はあったが、リスク資産でお金を運用するという視点が「追加」された形。教科書により資産形成ページの分量は異なる(撮影/写真映像部・上田泰世)
これまで経済の項目はあったが、リスク資産でお金を運用するという視点が「追加」された形。教科書により資産形成ページの分量は異なる(撮影/写真映像部・上田泰世)
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 高校生の家庭科の教科書に今春から資産形成の項目が加わっている。岸田内閣が掲げる「1億総株主構想」の土台にもなる金融教育だが、全高校が“すぐ対応して授業に取り入れる”とはいかないようで。AERA 2022年9月5日号の記事を紹介する。

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 この4月、高校で使われる家庭科の新学習指導要領に変化があった。「資産形成」が追加されたのだ。メディアは“金融教育元年”とばかりに「高校生の資産形成教育スタート」と報じた。その結果、文部科学省が投資家育成方向に大転換したかのような誤解が広がっている。

 本誌は「資産形成の授業が始まったようなので、現場の様子をレポートしよう」と、この企画を立ち上げた。だが取材を進めるうち、各方面の“温度差”を感じることとなった。

 事実関係を整理しよう。そもそも法的拘束力のある学習指導要領に「投資」の文言はない。一方、学習指導要領解説には株式や投資信託といった金融商品のメリット、デメリットに加え「資産形成の視点にも触れるようにする」とある。学習指導要領解説は授業用の参考として作られ教科書にも反映されるが、法的な拘束力はない。

 教育カリキュラムを扱う文科省初等中等教育局教育課程課の担当者は、「いろいろな見方を高校生に知ってもらうことが重要です」と学習指導要領解説の意図を説明した。「高校生に無理やり投資をさせるものではありません」とも。もし「今春、高校で投資教育が必修になった」の正誤を問われてマルを選ぶと不正解ということである。

 続いて家庭科の教科書『家庭基礎 つながる暮らし共に創る未来』(教育図書)を入手した。調理や栄養といった懐かしい項目だけでなく、ライフプランやキャッシュレスといった従来の経済項目も載っている。今年から新たに加わった資産形成は1ページしかなかった。

資産形成は数ページ

 文科省の教科書目録によると高校生の大半が選択する「家庭基礎」と「家庭総合」の教科書は16種類ある。そのうち資産形成は3ページ前後の記述が大半という。日本の金融教育が一歩前進したことは間違いないが、予想より分量が少ない……。

 実際には資産形成に詳しい教員ばかりではないだろう。文科省は都道府県・政令市の教育行政担当者を集めて開いた会議で学習指導要領改訂の趣旨を再度説明。金融庁が作成した「高校生のための金融リテラシー講座」を紹介するなど情報提供に努めたが、それで先生が生徒に教えられるレベルになるのか。

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中島晶子

中島晶子

ニュース週刊誌「AERA」編集者。「AERA」とアエラ増刊「AERA Money」の編集担当。投資信託、株、外貨、住宅ローン、保険、税金などの経済関連記事を20年以上編集。NISA、iDeCoは制度開始当初から取材。月刊マネー誌編集部を経て現職

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