一方、前出の古屋さんは背景に「若手の不安の高まり」があると見る。
「かつての日本企業は心理的安全性を与えれば若手の不安を解消できました。終身雇用で定年退職後も悠々自適で暮らせるキャリアの安全性があったからです。その保障がなくなった今、自分のキャリアが今後も選択可能で生き生きとした職業生活を送っていけるよう、若手は成長の機会を貪欲に求め、それが実現できていないことに不安を募らせています」
調査で不安の理由を探ると、「自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないか」と感じている人が5割近く。「学生時代の友人・知人と比べて差をつけられている」と感じている人が約4割。「このまま所属する会社の仕事をしていても成長できない」が35%いた。
今の若い世代は働く上で「ありのままでありたい」「何者かになりたい」という二つの動機を持つ、と古屋さんは言う。「ありのまま」とは、好きな場所や時間に働きたい欲求。「何者かになりたい」というのは、周りから認められたいという願望だ。今の職場は、若手にありのままであることは担保できても、何者かになることを保証できていない場合が多いという。
「今までの日本企業の育て方は、背中で教えるか、修羅場を経験させて習得させる、といったやり方が主流でした。しかし、この育て方を続けている限り、労働時間が短くなり、コミュニケーション手段が変化する中で伝達効率が落ちてしまいます。これまでと全く違うアプローチが必要です」
解決の方向性の一つとして古屋さんは「職場の外で育てる」ことを挙げる。
「今はオンラインを活用して副業や兼業をしたり、地域のコミュニティーやプロボノに参加したりして、個人が自発的に活動の幅を広げることができる時代です。こうした社外で培ったスキルや経験、ネットワークを本業に還元しやすい社内システムをつくるのも有効です」
「ゆるく」なる職場で、より厳しくなる社会を生き抜くスキルを磨く。この命題は若手だけに課されたものではない。(編集部・渡辺豪)
※AERA 2022年9月5日号より抜粋