西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修さんは、松坂大輔さんの西武臨時コーチ就任に期待を寄せる。
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うれしいニュースが飛び込んできた。西武が松坂大輔を臨時コーチとして招くという。私が西武監督時代にレギュラーとして使った松井稼頭央が監督となり、1998年のドラフトでクジを引き当てた大輔が臨時コーチになる。こんな楽しみなことはないよね。
2021年12月4日、西武のファン感謝イベントで行われた大輔の引退セレモニーで花束を渡した際に「一つまた新たな約束をしてほしい」と言って、「西武ファンの皆さん、耳を澄まして聞いてください。大輔、今度帰ってくる時はライオンズのユニホームしか着ちゃダメだぞ! どうですか皆さん」と声を上げた。大輔には「こればかりは、僕がやりたいと言っても来れるわけではないんで……」とはぐらかされかけたが、「またライオンズに声を掛けてもらえるように、またこれからももっと野球を勉強して、戻ってこれるように努力します」と話してくれたことを思い出した。
西武は黄金時代と言われた1980~90年代前半に中心選手だった工藤公康、秋山幸二がソフトバンクで指揮を執った。西武で培った野球、そこで育った選手の野球観は、他球団に大きなものをもたらしたと思う。一方で、西武のOBとしては、西武を強くするために、その力を結集できないものか、とずっと思っていた。
伝統は長い年月をかけて培われていくものだ。どの年代にも受け入れられ、それが必要不可欠であるというものが残っていく。時代が変わり、スポーツ科学の進歩もあるが、「古いものは排除」と決めつけず、「1周回って考えたときに、この伝統を守っていこう」というものも出てきているはずだ。それを伝えられるのはチームの中心として、チームのことを考え抜いた選手だけである。
投手として絶対に失ってほしくない考えがある。それは先発投手なら試合が決するまでマウンドを譲らないという思いである。そのためには9回を投げ抜く力、球数をマネジメントする力、年間を乗り切る体力をつける必要がある。何より、監督から「こいつは代えられない」という絶対的な信頼感を得る必要がある。投手分業が確立されても、先発完投を目指さない先発投手は、大きな活躍はできない。