学校に寄せられる保護者からのさまざまな要求。行き過ぎたものなのか、正当なものなのかという線引きが難しくなっている。かつては非常識とされた要求も、今では学校で採り入れられていることもある。AERA 2022年8月29日号の記事から紹介する。
【図版】「下着」「水筒の中身」など、かつての“非常識”が“常識”に変わりつつある「保護者の要求」いろいろ
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学校に理不尽な要求をする親は、これまで「モンスターペアレント」と呼ばれてきた。しかし、この名称は弊害も生んでいる。最近は「教員からモンスターペアレントと思われるのでは」と恐れ、正当な要望すら口にできなくなっている保護者が少なくない。
保護者対応トラブルに詳しい、大阪大学名誉教授の小野田正利さんは言う。
「保護者の要求には『要望』『苦情』『無理難題』という3段階がある。『無理難題』は別として、『要望』や『苦情』は正当性があるものが多い。ところが『モンスターペアレント』という言葉は保護者を『化け物』として人格否定し、要望や苦情もいっしょくたに切り捨ててしまう。結果、学校は自分たちの行為や判断を省みないまま、保護者の発言を封じ込めてしまっている。だから、私は『モンスターペアレント』という言葉の使用に反対しているのです」
そもそも保護者の要望のうちどこまでが正当な範囲のもので、どこからが度を超すものかという線引きも非常に難しい。保護者側と学校側の認識が異なるケースが多々ある。
特にコロナ禍においては、保護者側の要求も、応じられないとする教員側も、どちらも「不当」とは言いがたいケースが続出した。
近畿地方の公立中学校に勤務する40代の教員は2021年春、オンライン授業のために発送したWi-Fi機器について「家まで来て接続をしてほしい」と保護者から要望された。触ったこともない機器を送られた保護者もさぞ困ったとは思うが、機器の接続は教員が担う業務範囲を超えている。外出自粛を要請されていたこともあり要望には応じなかったが、やりきれなさが残った。
コロナ禍では他にも「休校にされるとパートに出られないので子どもを預かってほしい」「卒業式への参列が不可ならビデオ撮影をしてほしい」「濃厚接触者になると仕事に出られなくなるので、子どもを休ませるか判断するため感染者が出たクラスを教えてほしい」など、保護者にとっては切実な、同時に教員たちにとっては頭を抱えるような各種の要望が学校に寄せられていた。