作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

特別な8月当たり前の日常続けるために(イラスト:サヲリブラウン)
特別な8月当たり前の日常続けるために(イラスト:サヲリブラウン)
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 日本の8月は特別な月です。広島と長崎に原爆が落とされ、終戦を迎えるに至ったから。

「終戦の日」と言うと、戦中に子どもだった父は「敗戦の日」と必ず訂正を入れてきました。いまはのんびりとした暮らしをしている84歳の父は、日本が戦争に負けたことを知らせる玉音放送を聞いたことがある。疎開先の沼津で空襲にもあっている。そう思うと、今日という日は77年前の8月と地続きであると、改めて認識せざるを得ません。

 私が小学生だった頃、つまりいまから40年ほど前は、あと数年で戦後40年と言われていたのを覚えています。当時の私にとって、30年以上前のことは永遠に近い遠さでした。

 しかし、自分が49歳になると、30年前は近い過去の部類に入る。あの頃の私は、いまよりずっと「戦後」を生きていたのでしょう。

 戦争経験者の話も数多く聞いた記憶があります。子どもだったので十分に理解できなかったのは当然ですが、日本が戦争に負けてから、たった三十数年しか経っていなかったことを、もっと真剣に捉えられる年齢だったら良かったのにと悔しくも思います。

 パーソナリティーを務めるラジオ番組では、「私が聴いた戦争経験者からの話」を募集し、8月15日に紹介しました。父母よりも祖父祖母から聞いたお話が多く、戦後三十数年と77年の違いを痛感しました。

 人の命には限りがある。戦争経験者はどんどん減っていきます。語り継ぐことの重要性が、最も問われているのがいまではないでしょうか。

 いただいた多数のメールには、「たまたま右に行ったら助かったが、左に行った戦友は命を落とした」という類いのエピソードが数多くありました。偶然だけで命の有無が決まる恐ろしさを、私はどれほど理解できているのか。

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