ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「吉田拓郎さん」について。
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私の両親は、終戦後5年間(昭和20年~25年)の間に生まれた、いわゆる「団塊の世代」に属します。それまでの大人世代とはまったく異なる欧米文化や教育の中で育ち、高度経済成長期が終わる頃に社会人となり、バブル景気とともに40代へ突入し、平成不況とリーマンショックの間ぐらいで定年を迎えた、現在70代の人たちです。
芸能界でも、ビートたけしさん・中尾ミエさん・沢田研二さん・五木ひろしさんなど、今なお第一線で活躍されている方がたくさんいます。こと音楽界では、井上陽水さん・小田和正さん・矢沢永吉さんらが「団塊の世代」にあたり、また松任谷由実さん・山下達郎さん・中島みゆきさん・竹内まりやさん・桑田佳祐さんといった1950年代生まれを含め、「アラウンド古希」のアーティストたちが完全にビジネスを引っ張っている状況です。私自身も、積極的に消費する音楽は、洋邦問わずその世代のものが圧倒的に多く、このまま行くと自分が50・60代になった時はいったい何を観て聴いているのか、少々不安になります。
そんな中、団塊世代のひとりである吉田拓郎さんが今年限りで引退するとのことで、先日ラストアルバムがリリースされ、私にとってはそれが生まれて初めて買う「吉田拓郎」のCDとなりました。
「吉田拓郎」という存在は、いわば自分の親世代もしくはその少し下世代の代表・象徴のような人。ただ、私が育った家庭では、ビートルズやダイアナ・ロス、井上陽水は流れていたものの、幼少期に親を通して「拓郎の音楽」に触れる機会はほとんどありませんでした。しかし10代になってから、森進一さんの「襟裳岬」を筆頭に、その昔よく聴いていた多くの歌謡曲が吉田拓郎による作品であることを知り、ようやく私の中にも「吉田拓郎との接点」が生まれたわけです。そして昭和歌謡と呼ばれる音楽に没入すればするほど、「吉田拓郎」という人は、例えばキャンディーズの「アン・ドゥ・トロワ」、由紀さおりの「ルーム・ライト(室内灯)」、いしだあゆみの「今夜は星空」、研ナオコの「六本木レイン」など、ちょっと小洒落たスモーキーな曲を作るヒットメーカーとして認識されていく一方で、大人たちが熱狂する「拓郎」との本質的な関係性は築けないまま今まで来ました。