松任谷:せっかくならその時代でできる最高のことをやりたいなと思って。4年ごとに3回やった「シャングリラ」というシリーズ(1999~2007年)。あれも時代がよかった。ファンドみたいなことでスポンサーが巨額な資金を集めて、それをステージに投入できたから。
林:メッチャクチャお金かかってたでしょう?
松任谷:メチャクチャかかってる。3シリーズで120億円ぐらい。
林:エッ、120億円!?
松任谷:4作目をやろうとしたら、その時点で「ダメ。できない。もう世の中が違うんだ。ああいうものを受け入れる社会ではなくなってる」ということを痛感した。サブプライムローンがあり、リーマンショックがあり。で、いま追求してるところは、視覚的、金額的にすごいというのじゃなくて、心に残ること。3次元から4次元を超えて、5次元6次元7次元ぐらいのことを提示しようとしてる。
林:昔の荒井由実さんと今の松任谷由実さんがAIでデュエットしてますけど、あれは……。
松任谷:アバター。分身ですね。
林:ああいうことにも挑戦してるのはすごい。
松任谷:まだヨチヨチ歩きですけれど、これから世界中のアーティストが自分のアバターを持つようになるんじゃないかな。全員とは言わないけど。
林:なんでそういうすごいことを次々と考えるんですか。
松任谷:夫(松任谷正隆氏)のアイデアがほとんどなんだけれど、私も好奇心が強いし、そういう新しいことをやりたいという人たちが集まってくる。
林:「この人と組みたい」というユーミンのアンテナの感度、すごいなと思いますよ。どうやって情報を得てるんだろうと思って。
松任谷:感覚。「あんなに一緒に仕事してたのに、バイブス(テンション、ノリ)ちょっと違うな」っていうことも起こる。だからすごい変化してる。
林:ユーミンと一緒に仕事してきたことを誇りに思ってる人はちょっと寂しいけど、しょうがないか。
松任谷:しょうがないよね。人は変わり続けないと。
林:ユーミンファミリーは絶えず代わってるんだ。
松任谷:ファミリーという考えはあんまり持ってない。演劇なんかで「カンパニー」って言うじゃない? その感じに近いかな。ある目的に沿って集まって、終わると解散。そしてまた結成する。カンパニーが何かプロジェクトを立ち上げるという感じ。
林:なるほど。
(構成/本誌・唐澤俊介 編集協力/一木俊雄)
※週刊朝日 2023年1月27日号より抜粋