「グループ各社が保有するデータをヨコでつなぐイメージです。我々はデータの“連邦制”といっています。同時に、データ活用は、法規制に従って、顧客に迷惑をかけない形で進める。安心安全には十分留意する」

 共通のデータ環境を整備し、互いのデータの利活用が進むにつれ、事業部間の関係性は成熟していった。結果、「新しいお客さまの見え方があったり、パートナーやクリエイターとの接点の持ち方にも厚みが出てきました」という。

 現在のメンバーは、日米トータル280人、分科会や現場を含めると、その数はさらに膨らむ。社内のデータアナリスト、AI技術者、ネットワーク担当者、ソフトウェアエンジニアなど、デジタルの最前線をいく強者たちが主体的に参画する。

 実際、データを生かした施策も出始めている。たとえば、ゲーム、音楽、映画などのコンテンツに、いつ誰が接触したかのデータを収集、分析して、顧客の趣味趣向をより深く理解する。蓄積データを「SPIDR(ソニーピクチャーズ・インテグレーテッド・デジタル・レポーティング)」と呼ばれるAI予測モデルで分析すれば、映画の劇場公開前に興行収入を予測できるのだ。

「どういうジャンルだったら、どれくらいの興行成績が期待できるかを、AIが予測します。それによって、アプローチを変えていくことができるんですね」(小寺)

 ソニーの映画事業は、多額の広告費用に苦しめられた過去を持つが、「SPIDR」を活用して興行収入を先読みできれば、広告費用に振り回されることはなくなる。過去の経験や勘に頼るのではなく、データを分析して得られる結果をベースに、意思決定をしていくスタイルである。「データ・ドリブン経営」は、顧客ニーズが多様化する現代において、すばやく精度の高い意思決定を可能にする。過去のしがらみや社内政治から離れ、客観的な分析に基づく意思決定ができるという意味で、社員一人ひとりが自立してクリエイティビティを発揮することをサポートする。(文中敬称略)(ジャーナリスト・片山修)

AERA 2023年1月23日号より抜粋

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