ソニーグループの吉田憲一郎CEOは、直接つながる顧客を現在の約1億6千万人から10億人に拡大するビジョンを公表した=東京都港区(撮影/写真映像部・東川哲也)
ソニーグループの吉田憲一郎CEOは、直接つながる顧客を現在の約1億6千万人から10億人に拡大するビジョンを公表した=東京都港区(撮影/写真映像部・東川哲也)

「ソニーグループは現在、世界で約1億6千万人とエンタテインメントの動機でつながっている。これを10億人に広げたい」

 ソニーグループ会長兼社長CEOの吉田憲一郎が「10億人」という衝撃的な数字を公にしたのは、2021年5月26日、オンラインで開かれた経営方針説明会の席上である。

■壮大なビジョン

 壮大なビジョンだ。さすがの小寺も、「10億人」という数字に驚きを隠せなかった。「相当、踏ん張らないとむずかしいと思った」という。

 高いビジョンは、いい意味でのプレッシャーになった。「10億人」のユーザーとつながれば、データを活用して一段高いレベルに到達できる。

 同説明会の直前、小寺は吉田から次のようなミッションを与えられた。

「プレイステーションネットワーク(PSN)で得た知見をグループ内で広く活用し、ケイパビリティ(組織能力)を高めてほしい」

 PSNは2006年、ゲーム機プレイステーション向けにサービスを開始したアカウント制オンラインサービスだ。ゲームや映画の購入のほか、音楽配信チャットやコミュニティ機能などSNS的な楽しみ方もできる。PSN経由の売り上げは現在、1兆8千億円を超える。

 小寺は、PSNに10年以上関わり、データに基づき意思決定をする「データ・ドリブン経営」の知見を蓄積した。その強みや文化を誰よりも熟知している。

「PSNでは、映画や音楽の事業と連携してグループ全体が成長できるような関係性ができた。それをワールドワイドに広げてほしいという期待があるのだと思いました」

 21年4月のCDO就任に先立ち、小寺は19年末、ソニーグループのDXの中心的役割を担う「DXフォーラム」を立ち上げていた。スタート時のメンバーは、社内の事業会社の社員20人だ。まずは、準備に時間をかけた。課題を洗い出しながら、ビジネスの可能性を討論した。事業会社ごとだったデータの定義を全社で統一した。情報や意見を交換し、DXに取り組むにあたっての課題や目的を共有した。興味が共通する人同士でDXを使った具体的な課題解決のアプローチの検証を行った。

■データの民主主義

 そして21年、グループ横断のデータ活用プラットフォーム「SDO(ソニー・データ・オーシャン)」を構築した。グループ内のデータに、必要なメンバーがアクセスできる“データの海”ともいえる状態にし、クラウドに蓄積した。中央集権化は図らなかった。データの民主主義である。

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