ソニーグループが営業利益1兆2023億円(2022年3月期決算)をたたき出した。営業利益1兆円超えは国内製造業ではトヨタ自動車に次ぐ2社目だ。家電の不振から復活した原動力は、そこで働く「ソニーな人たち」だ。
短期集中連載の最終回は、ソニーグループ常務CDO(最高デジタル責任者)を務める小寺剛(53)さんだ。巨大データの重要性が増すなか、日本企業のデジタル変革は周回遅れに甘んじている。壮大なビジョンを掲げ、逆襲を図るソニー。小寺さんがその鍵を握っている。AERA 2023年1月23日号の記事を紹介する。(前後編の前編)
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データは、21世紀の新たな石油といわれる。巨大なデータを有効活用し、競争の優位性を高めるには、DX(デジタル・トランスフォーメーション=デジタル変革)の実現が不可欠だ。
日本企業の競争力を取り戻すことにもつながる。ところが、欧米や韓国にくらべ、日本企業のDXは周回遅れだ。じつは、ソニーでさえ、例外ではない。
逆襲を図るソニーのDXにおけるキーマンは、ソニーグループ常務CDO(最高デジタル責任者)を務める小寺剛(53)である──。
小寺のビジネスの原点は、足かけ23年にわたる米国での駐在員生活だ。1992年にソニーに入社、企画管理部を経て、98年に米国ソニー・エレクトロニクスに赴任した。アマゾンやグーグルが創業し、ネットワーク時代のテクノロジーやサービスが席巻し始めたころだ。彼らは当初から、当然のごとくデータを経営に活用していた。GAFAが勢いを増す中で、ソニーの事業が次第に苦しくなっていくのを、小寺は現地で実体験する。
■シナジー発揮されず
「アメリカで長年にわたり働いた経験からいうと、ソニーは、技術を突き詰め、何かを成し遂げるという意味でのフォーカスはしっかりしていた。しかし、データを活用しスケーラビリティを意識したビジネス設計ができているかというと疑問でした」
ソニーグループは、G&NS(ゲーム)、音楽、映画、ET&S(エンタテインメント・テクノロジー&サービス)、I&SS(半導体)、金融の6事業からなる。過去には、事業間のシナジーが発揮されず、経営効率を押し下げる「コングロマリット・ディスカウント」が指摘された。
考えてみれば、多様な事業を持つソニーは、膨大なデータを保有している。事業や組織の壁を乗り越え、データの利活用を進めることができれば、新たな顧客価値やソニーならではの体験価値を創出できるだろう。求められるのは、多様な事業を抱えるソニーの潜在力を一気に引き出すDXの実践だ。