『両手にトカレフ』(1650円〈税込み〉/ポプラ社)/カネコフミコの本を読み進めるうち、ミアは誰よりもフミコを近くに感じるようになる。一方、同級生のウィルにラップのリリックを書いてほしいと頼まれたことで、彼女の「世界」は少しずつ変わり始める
『両手にトカレフ』(1650円〈税込み〉/ポプラ社)/カネコフミコの本を読み進めるうち、ミアは誰よりもフミコを近くに感じるようになる。一方、同級生のウィルにラップのリリックを書いてほしいと頼まれたことで、彼女の「世界」は少しずつ変わり始める

■光が見える終わり方

 実は私は暗く重い終わり方をする小説の方が好きなんです。なぜかって言うと、重く暗く終わった方が提起があるし、ちょっと高尚なイメージがあるじゃないですか(笑)。でも、本書をいちばん読んでほしいのは、悩みを抱えている10代の子どもたちです。そういう状態にある子どもたちが、本を読んだ時に暗い文学的な終わり方をしていたら、どう思うだろうって改めて考えたんですね。自分を振り返ってみると、私は10代の時に暗い重めの話をたくさん読んでいましたが、その一方で少女漫画も読んでいたなって(笑)。少女漫画のような明るい終わり方をする作品に、すごく力をもらっていたんですね。結果的に、何かしら光が見えるような終わり方にしましたが、それでよかったと思っています。

──主人公のミアは、14歳。貧困にさらされ、さらには病気のお母さんの代わりに弟の面倒をみる、つまりヤングケアラーです。小説には、そんな環境から逃げることすらままならない彼女の苦しさが書かれていますね。

 最初からヤングケアラーを書こうと思っていたわけではありませんでした。思い返せば私が働いていた託児所の子どもたちは、何らかの問題を抱えていてソーシャルワーカーが介入しているような家庭の子どもばかりでした。

 今でも私と交流のある子もいますし、小さい町だから暮らしぶりは耳に入ってきます。彼らはすでに中学生になっているんですが、多くの子がヤングケアラーになっているんです。幼いころから子どもたちの親は、依存症からの回復中だったり、うつ病だったり、何かしらの不調を抱えている人が多かったわけだから、当然の成り行きなんですよね。そういう子どもたちのエッセンスを入れて書いていったら、これっていわゆるヤングケアラーの話だよねってことに気づいたのです。

■こぼれ落ちた子ども

──本書では、金子文子の自伝を読んだミアが、フミコ(本書の中ではカネコフミコ)に自らを重ねていきますね。

『子どもたちの階級闘争』でも書いた「底辺託児所」と呼んでいた託児所に私が勤めていた時に、そこにいる子どもたちが金子文子みたいだなって思っていたんです。金子文子は、100年も前の日本に実在したアナキストですが、過酷な少女時代を過ごしています。国も違うし、時代も違うのに、目の前にいる子どもたちの日常と、金子文子が私の中でリンクしたんです。

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